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第23話【出会い編】光る君へ。政府の最終兵器は今日から魔王領の境界で〝闇(あん)パン〟売ります

第23話【出会い編】光る君へ。政府の最終兵器は今日から魔王領の境界で〝あんパン〟売ります



「もうダメだぁ……お腹空いて、雲がパンに見えるよぉ……」


政府オーディションから逃亡したデネブ、ベガ、アルタイルの三人は、絶望の果てに〝闇の魔力が一番濃い場所なら、政府の追手も来ないはず〟という短絡的な思考で、魔王領の境界近くまで辿り着いていた。


「……くそ、筋肉が……俺のバルクが、栄養失調で悲鳴を上げている……」


「算盤を弾く手が止まらない……計算が合わない。政府からも見捨てられ、手元には銀貨数枚。……ん?おい、向こうから真っ黒な荷車が来るぞ?」


街道の霧の向こうから、漆黒のキッチンワゴンを引いた一人の少年――アレスが現れた。


「……フフフ。飢えているようだな、光の世界を追われた、哀れなパン屑ども。……食うか?私が闇の魔剣で包み上げた、至高の〝あんパン〟を!」


アレスが差し出したのは、魔界の黒小豆を〝絶望〟という名のスパイスで煮詰め、漆黒の生地で包んで揚げた、禍々しくも甘い香りを放つパンだった。


「……あんパン?〝パクリ〟……んんっ!?なにこれ、甘いのに辛い!でも心の隙間に闇が染み込んでくるぅぅ!」


「(一口かじって)……ぬ、ぬおおおお!なんだこのパンの弾力は!?噛むたびに絶望の魔力が歯茎を押し返してくる!筋肉が喜んでいるぞ!」


「(目を見開く)……これだ!この〝一度食べたら闇落ちするまで止まらない中毒性〟……!このスパイシーな闇、金になる!」


「……ククク。気に入ったかい?これは魔王様にプリンの件で怒られた僕が、謝罪の品として開発した究極の一品だ。……君たち、僕と一緒に〝闇のパン屋〟として世界を見返してやらないか?」


『……いつからパン屋の勧誘員になったのよ、この元勇者は』


腰のサタンブレイドが呆れる中、史上最も志の低い【闇の四天王〝パン部門〟】が結成された。崖っぷちの四人が経営する〝暗黒厨房:サタン・ベーカリー〟は、「食べると闇(病み)つきになる」と噂になり、瞬く間に行列ができるようになった。


「さあさあ、寄ってらっしゃい!食べれば勇気(と胃もたれ)が湧いてくる、魔界直送のあんパンだ!」


「筋肉増強!脂肪燃焼!食べながらスクワットだ、オラァ!」


「えへへ、お茶もセットでいかがですかぁ?(マグマのように吹き出す泡と、毒々しい紫色をしたハーブティー)」


アレスは奥で魔剣サタンブレイドを使い、巧みにパン生地を切り分けていた。


「……フッ、これぞ闇の修行。魔王様への献上品も、この〝あんパン〟にすれば許されるはずだ……」


『……ちょっと!私の刀身にパン粉を付けないでよ!』


数日後。店が最も賑わっている時間帯に、地響きと共にあの〝歩く災厄〟が現れた。


「……おい。なんだこの行列は。道の真ん中でパンをこねるとは何事だ。通行の邪魔だろうが」


馬車から降りてきたのは、青い髪をなびかせ、聖剣を肩に担いだ女・テラ。その後ろには、行列の人数を冷徹にカウントするセレネが控えている。三人の候補者は屋台の陰でガタガタと震え出した。


「ガクガクブルブル」


「筋肉が……筋肉が収縮していく……!」


「…………(隙を見てレジ金を抱えて逃げようとするベガ)」


その様子を見たアレスは本能的に危機を察知し、魔剣を構える。


「……何者だ、光の気配を纏いし者よ。ここは闇に棄てられた者たちの聖域。パンを買わないなら立ち去れ!」


「……闇?聖域?何を言ってやがる。……まぁいい。その〝あんパン〟っていう真っ黒いパンを一つ寄こせ」


テラは差し出された漆黒のパンを、躊躇なくガブリと食べた。


『おいテラ、それ見た目からして呪われてるぞ!やめとけって!』


ガイアセイバーが叫ぶが、その瞬間、魔剣サタンブレイドと聖剣ガイアセイバーの視線――刀身の向きが重なった。


『な……なんて清らかな光。まるで、汚れた私の存在を全肯定してくれるような……〝光る君〟……ッ!』


『こ……この禍々しくも妖艶な紫の魔力。そしてその凛とした反り。……まさに、私の魂の欠片。……ああ、〝紫の上〟……ッ!』


魂と魂の共鳴――いわゆる〝一目惚れ〟だった。


「……ほう。…………悪くない。いや、かなり美味いじゃないか。このパン、〝自分を馬鹿にした奴らを全員見返してやる〟っていう、ドス黒くて最高な執念の味がする」


「え……」


「甘っちょろいパンかと思えば、後からピリリと〝反逆の味〟が追いかけてきやがる。……お前、このパンをこねることで、世界を殴る準備をしてるんだな?」


「……殴る準備……?僕が……?」


「いい面構えだ。気に入った。おいセレネ、これ全部買い占めろ。あの子たちへのお土産にする!」


「了解しました。記録:〝勇者、闇のパン屋にて爆買いを敢行。費用はネプチューン大臣の退職金積立から補填〟。……店主さん、お代は国の大臣の予備費から全額落としておきますね」


「……認めて、もらえた……?パンを作っている今の方が……?」


アレスの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


「いいか、店主。剣の才能は知らねえが、お前のそのパンには〝人を黙らせる力〟がある。……じゃあな、あんの勇者!」


テラはニヤリと笑うと、小切手を叩きつけ、爆走する馬車と共に去っていった。


『待て、行くな……!ああ、愛しき〝光る君〟よ!私のこの白金の輝きは、君という闇を照らすためにあったのだ!』


『……ああ、行かないで〝紫の上〟!私をその眩い光で焼き尽くして!鞘なんて脱ぎ捨てて追いかけたいわ……!』


馬車が砂埃を上げて猛スピードで遠ざかる中、二振りの魔剣と聖剣は、切なさと高揚で激しく共鳴し、アレスの腰で火花を散らした。


「……あんの、勇者……?……誰だったんだ、あの嵐みたいな人……。青い髪……聖剣を引き抜こうとした時に、僕をゴムボールみたいに弾き飛ばした人に似てるような……」


「アレス様!完売だ!しかも政府への卸売り契約成立!利益率200%超え!」


「筋肉とパンの融合!これぞ新時代の勇者だぁぁ!」


「……いや、思い出すのはやめよう。あんな恐ろしい記憶、魔界にまで持ち込みたくない。あれはきっとただの〝髪の色が似ているだけの、優しいお姉さん〟だ」


こうして、政府が送り込もうとした〝最終兵器〟たちは、人々の胃袋を満足させる〝あんパン職人〟として、第二の人生を謳歌し始めるのであった。



※※※



一方、政府庁舎。ネプチューン大臣の元には、テラからの高額な領収書が届いていた。そこには大きな文字でこう記されていた。


あんパン十年分。払わないなら議事堂を更地にする〟


「……パンで……国費が消える……(泡を吹いて倒れる)」






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