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第12話【出会い編】『今日の僕は少し、殺気が鋭すぎるようだ』アレスの聖なる黙示録

第12話【出会い編】『今日の僕は少し、殺気が鋭すぎるようだ』アレスの聖なる黙示録



「何だ、このボロボロの廃屋は」


街道を走るテラの豪華な馬車が、うらぶれた宿場町で車輪を止めた。

セレネが〝勇者行動記録〟を無表情に整理している間、テラは手持ち無沙汰に、街道脇にある打ち捨てられた〝元・詰所〟と思われる廃屋へ足を踏み入れた。


「……湿気臭いな。何年も使ってなかったと見える」


「テラ様、あまり勝手に動き回らないでください。……おや、ここはかつての勇者候補生たちの宿泊施設ですね」


セレネは冷淡に言い放ち、テラの後を追って部屋へ入った。その時、テラが部屋の隅に積み上げられた、明らかに異質なオーラを放つ〝負の遺産〟に目を留めた。


「……なんだ、ありゃ。ゴミか?」


そこには、誰かが忘れていったらしい〝残骸〟とも呼べる遺留品が、不気味なほど丁寧にまとめられていた。

まずテラの目に飛び込んできたのは、机の上に置かれた一冊の薄汚れたノートだった。表紙には、金文字を模したであろう剥げかかった塗料で、仰々しくこう記されている。


『光の軌跡〜真の勇者へと至る聖なる黙示録〜〔著:アレス〕』


「……はぁ?黙示録?」


「……アレス?記録の歴代勇者にはない名ですね。どこぞの落第生でしょうか」


テラは顔をしかめ、指先でつまむようにしてそのノートを開いた。中には、びっしりと震えるような筆致で、読むに耐えない〝設定〟や〝目標〟が書き連ねられていた。


〝一、朝目覚めたら、鏡に向かって『選ばれし者よ……』と三回唱えること〟


「…………(テラは無言で次のページをめくる)」


〝二、聖剣(仮)を抜く時は、必ず左目を隠し、失われた右腕の疼きを抑える演出を入れる〟


「……右腕が疼くなら医者に行くべきでは?」


セレネの分析をよそに、テラはさらに読み進めた。


〝三、宿屋の女将さんには『……ふっ、釣りはいらないよ。世界に平和が戻ったら、また来る』と言って、銅貨二枚を多めに渡す(※今月は予算不足につき要相談)〟


「…………(テラは無言で次のページをめくる)」


セレネは事務的に分析するが、テラの顔色はどんどん悪くなっていく。そこには、アレスが夜な夜な考えたのであろう〝かっこいい技名〟が図解入りで並んでいた。


暗黒破壊ダーク・デストラクションきわみ


〝虚無の波動ゼロ・インパクト


終焉ジ・エンド円舞曲ワルツ〟……


「……なんでただの体当たりに、こんな長い名前がついてるのでしょう?」


さらに後半には、磨きのかかった〝ポエム〟の数々が綴られていた。


〝見えない鎖が、僕の魂を縛り付けている。この運命さだめから逃れることはできないのか。〟


〝……いや、僕はあえてこの鎖を抱いて眠ろう。これこそが、勇者の証なのだから……(※注:ズボンのチャックが壊れて噛み込んだ。誰か助けて)〟


「……最後の一行だけ本気の悲鳴じゃねえか!!」


「……解読不能な精神汚染文書ですね」


極めつけは、ノートの最後に挟まれていた〝自画像のデッサン〟だった。

そこには、赤い髪を異常に逆立て、片目を手で覆い、ありもしない〝魔眼〟を必死に表現しようとしたアレスの肖像画が描かれていた。

絵の端には、小さな文字でこう添えられている。


〝……ふっ、今日の僕は少し、殺気が鋭すぎるようだ〟


「……っ、うわああああああ!!」


テラは耐えきれず、叫び声を上げながらそのノートを床に叩きつけた。あまりの〝痛々しさ〟に、聖剣や勇者の加護すら突き抜ける精神的ダメージを受けたのだ。


『おいテラ、どうした!?魔王軍の奇襲か!?』


鞘の中でガイアセイバーが驚いて声を上げる。


「ガイア……火だ!いますぐ火を持ってこい!セレネ、お前も手伝え!この部屋には、人間の尊厳を根底から破壊する恐ろしい瘴気が溜まっている!浄化……いや、焼却だぁぁぁ!」


「……理解しました。これは公衆衛生上の脅威です。処理しましょう」


セレネは無表情に、テラは必死の形相で、周囲のゴミに火を放った。


燃え上がる〝アレスの残骸〟――。

黒く染め損ねたマントも、鏡文字のポエムも、自分に酔いしれた自画像も、そして『聖なる黙示録』も、すべては炎の中に消え、浄化の灰へと変わっていった。


「……ふぅ。危なかった。あんな毒物、放置しておいたら、この街の子供たちの教育に悪すぎる」


「同感です。……テラ様、そんなに震えないでください。馬車のシートが揺れます」


テラは自分の腕に立った鳥肌をさすりながら、逃げるように馬車に飛び乗った。

彼女は知らないだろう。その〝残骸〟の主が、後に自分と対峙することになる〝闇の勇者〟であることを。







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