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体育祭とワイングラス ⑧

 借り物競走の次の種目は騎馬戦だった。

 恵が出場するので、由佳は応援席の最前列に移動する。

 恵は背が高いので、騎馬戦では土台のいちばん先頭になると聞いている。

 グラウンドに恵のいる四人組が登場する。恵の他は由佳が知らない人たちだった。

 恵たちはスタートラインに着くとさっそく騎馬を組むことになる。騎馬のいちばん上には背の小さな女子生徒が乗っている。髪を後ろにまとめた活発そうな女の子だった。

 騎馬戦では上に乗っている生徒たちが帽子を取り合う。一つでも多くの帽子を取ったクラスが勝ちになる。各学年が合同でチームを組み、クラス対抗でゲームを行う。

 グラウンドに引いた四角形のライン上に四つのクラスが並んでいる。一つの辺には各学年で同じクラスの騎馬が並んでいる。恵たちはラインの真ん中あたりにいる。

 スタートの号砲が鳴る。恵たちの騎馬はさっそく攻撃を仕掛けていく。

 騎馬の上の女子生徒は次々と相手の帽子を奪っていく。恵たちの騎馬は快進撃を続ける。

 もともと二十四あった騎馬は、気がつくと恵たちを含めてわずか四組になっている。恵たちのクラスが二組、あとは他のクラスが一組ずつ。全滅したクラスもある。

 騎馬たちは緊張感の中でお互いに向き合っている。

 恵たちのクラスは二組いるので、有利に進めることができる。恵たちが前に出て、もう一組の騎馬は後ろに控えている。

 やがて恵たちが攻撃を仕掛ける。相手の騎馬は必死に防戦している。

 そこをもう一組の騎馬が狙う。相手の帽子はあっという間に取られてしまう。

 相手の残りは一組だけ。恵たちはさっそく攻撃を仕掛ける。今度の相手は積極的に恵たちの帽子を取りにいく。恵たちは必死の攻防を繰り広げる。

 しかし恵たちは帽子を取られてしまう。その瞬間を残りの一組が狙う。

 恵たちと同じクラスの騎馬は、隙をついて相手から帽子を奪うことに成功する。

 恵たちのクラスの勝利が決まる。グラウンドには歓声が上がる。勝ち残った騎馬の生徒たちが手を挙げる。恵たちは座り込んで拍手をしている。

 由佳はそこで複雑な気持ちになる。勝利の功労者は間違いなく恵たちだった。それなのに、最後に美味しいところを持っていっただけの騎馬が賞賛を浴びている。

 わたしは恵たちを賞賛したい。恵たちも立ち上がって賞賛を浴びてほしい。

 でも世の中は厳しいみたいだ。実際の働きではなく、目に見える結果だけが評価を受ける。わたしは口の中に苦いものを感じながら、グラウンドの様子を見つめている。

 次の種目は各学年が別々のチームとなり、クラス対抗の百メートルリレーを行う。恵と杏奈がそれぞれ出場することになっている。二人ともクラスのアンカーとして出場する。

 由佳は恵のことも杏奈のことも応援したいと思う。

 スタートラインに一年生の各クラスの第一走者が並ぶ。そしてスタートの号砲が鳴る。

 最初に飛び出したのは由佳がよく知らないクラスだった。スタートダッシュで差をつけようと一気にスピードを上げていく。

 恵たちのクラスも杏奈たちのクラスも後塵を拝している。

 ランナーたちの差は広がっていき、そのまま第一走者は第二走者にバトンを繋ぐ。恵たちのクラスは三位、杏奈たちのクラスは四位になっている。

 第二走者は大きく順位を変えずにレースを展開する。一位と二位は逆転したけれど、恵たちのクラスは三位、杏奈たちのクラスは四位のままだった。

 第三走者はついてしまった差を縮めようと奮闘する。順位は変わらないけれど、差は縮めることに成功する。一位と二位は僅差だし、三位と四位も僅差となっている。

 しかし、二位と三位の間には大きな差がついている。

 恵も杏奈もこの差を乗り越えて優勝を目指さなければならない。

 ついに恵と杏奈が第三走者からバトンを受けとる。二人は勢いよく走り出す。

 二人は他のアンカーよりも圧倒的な速さを見せる。恵と杏奈は僅差でそれぞれ三位と四位につけているけれど、前の二人との差を一気に縮めていく。

 やがて四人のアンカーが横並びとなり、恵と杏奈がそれぞれ一位と二位に躍り出る。

 そこでグラウンドには歓声が上がる。由佳は思わず、二人に「がんばれ!」と声をかける。

 ここからは恵と杏奈の戦いになる。二人の間にあった僅差はなくなり、恵と杏奈はどちらが勝ってもおかしくないデッドヒートを繰り広げる。

 由佳は勝負を見つめながら切実に願っている。二人とも悔いのない勝負ができますように。恵と杏奈はなおも伯仲の戦いを繰り広げている。

 しかしゴールを目前にして杏奈が一歩前に出る。そのまま杏奈はスピードを上げ、体ひとつ分の差をつけて恵に勝利をする。

 杏奈の大逆転を目にした観客からは大歓声が上がる。

「すごいぞ!」「よくやった!」そんな声が聞こえてくる。

 杏奈は両手を上げて喜んでいる。恵は膝に手を置いて肩で息を切らしながら、杏奈のことを見つめている。その目はどこか悔しそうにも見える。

 やっぱり杏奈はすごいなと思う。最下位から一気に優勝してしまうなんて。杏奈はクラスのみんなに取り囲まれて、嬉しそうな笑顔を見せている。

 でも、恵だって必死に頑張っていたと思う。

 由佳は気がつくと同じクラスの杏奈ではなく、恵の元に駆け寄っている。

「お疲れさま。よく頑張ったね」と由佳は恵に声をかける。

「ありがとう。でも、やっぱり悔しいな。最後に圧倒的な力の差を見せつけられたよ」と恵が言う。由佳は持っていた水のペットボトルを恵に差し出す。

 恵はそのペットボトルを受け取って由佳に言う。

「由佳はクラスの輪に入らなくていいのか? せっかく杏奈が優勝したんだから」

「わたしがいなくても、みんなが杏奈のことを称賛してくれるから」と由佳は言う。「でも、恵のことはわたしの他に誰が労わってくれるの?」

 二位となった恵には誰も見向きをしない。恵のクラスメイトたちは応援席から様子を伺っているだけだ。そんなのはあんまりだと由佳は思う。

 今日のリレーに出場した人たちはみんなが称えられるべきだと思う。

 でも、敗者たちはうらやましそうに勝者の一軍を見つめるだけだ。

 由佳はそんな体育祭に複雑な感情を抱いてしまう。これが本当にあるべき姿なんだろうか? そこに由佳の背中から「大丈夫?」と声をかける人がいる。

 後ろにいたのは綾乃だった。彼女は心配そうな表情でわたしたちを見ている。

「心配すんな、わたしは大丈夫だ。それより綾乃はクラスの輪に入らなくてもいいのか?」と恵が綾乃に声をかける。

「杏奈にはもうおめでとうと言った。あとはクラスのみんなが喜んでくれるはずだ」と綾乃が言う。「優勝した人だけが盛り上がるのはなんだか違うような気がして」

 そこにクラスの盛り上がりから抜け出してきた杏奈が現れる。

「今日はありがとう、恵。とてもいい勝負ができたよ」

「そんなことないよ。杏奈の圧倒的な勝利だよ」

「でも、恵だってあの距離から逆転したじゃん。わたしたち二人で喜びを分かち合ってもいいくらいだよ」

「杏奈は優しいね。でも、恵の悔しいという気持ちも尊重されるべきだと思うよ。ごめんね、こんなことを言って」

「そうだね、由佳。こちらこそごめんなさい。ありがとう、恵。わたしと戦ってくれて」

「気にすんな。来年こそ、杏奈に勝ってみせるから!」

「わたしこそ、足の早さでは誰にも負けないからね!」

 そして恵と杏奈は抱き合い、お互いの健闘を称え合った。

「みんな、よく頑張った!」そんな声がグラウンドの片隅から聞こえてくる。

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