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体育祭とワイングラス ⑥

 一緒にお昼ごはんを食べようと杏奈に誘われた時、岩本麗奈は戸惑った。

 わたしなんかが彼女たちに混じってもいいのだろうか。そんな思いに囚われた。

 彼女たちとわたしは違いすぎる。彼女たちは眩しくて、わたしは醜い。本当はわたしなんかがいてもいい場所じゃない。麗奈はそう感じていた。

 だから「麗奈ちゃんもわたしたちの大切な家族なんだから!」と杏奈から言われた時、麗奈は申し訳ないという気持ちになった。わたしなんかが家族でごめんねと麗奈は思った。

 でも、杏奈からの申し出を断るという勇気もなかった。

 わたしにはそんな資格なんてない。わたしが断るなんておこがましい。

 だから、麗奈はそのまま杏奈に連れられて行った。姉の清華には今まで散々、迷惑をかけたけれど、それでも清華はわたしのことを受け入れてくれる。

 どうしてだろう。わたしだったら自分みたいなやつのことは大嫌いになる。なのにどうして杏奈も清華もわたしに優しくしてくれるのだろう。わたしはそう思ってしまう。

 麗奈は背中を丸めたまま、恐縮してみんなの輪に入らせてもらう。小さい声で麗奈は言う。

「よ、よろしくお願いします。杏奈の母親の妹で岩本麗奈と言います」

「よろしくお願いします。杏奈の友達で同じバスケ部の朝野恵と言います」

 黒髪ロングで眼鏡をかけた長身の女の子がそう言ってくれる。

「わたしもよろしくお願いします。杏奈のクラスメイトで佐野由佳と言います」

 茶髪でふわふわとしたセミロングの胸が大きな女の子もそう言ってくれる。

 その中でひとりうつむきがちな女の子が目につく。わたしなんかに緊張しているのだろうと麗奈はすぐに思い至る。

 人見知りなのかもしれない。あるいはわたしと同じく、自己肯定感が低いのかもしれない。わたしは彼女にシンパシーを抱く。

 もちろん彼女の方がわたしより何倍も素敵なのだけれど。そこで杏奈が言う。

「この子はわたしの大切な親友で白木綾乃っていうの。頭が良くてとっても可愛い子なんだ。よろしくね!」

「よろしくね」と麗奈が話しかける。「よ、よろしくお願いします」と綾乃が言う。

 確かに彼女のことは可愛いと思う。

 丸メガネをかけているので目立たないけれど大きな目をしているし、肌は色白で透き通っている。髪が多いので隠れているけれど、顔の造形もとても整っていると思う。

 わたしが彼女にメイクを施したら、とても美人になると思う。

 シートの上では二つの輪ができている。杏奈たちの輪とその家族たちの輪である。

 杏奈によると来ている家族は、杏奈の両親と綾乃の母親、恵の祖母、そして由佳の両親だという。家族たちは既に話が盛り上がっているように見える。

 だから麗奈は家族たちの輪ではなく、杏奈たちの輪に入ることになる。

「ごめんね、わたしみたいなおばさんが紛れ込んじゃって」と麗奈は言う。

「そんなことないよ。麗奈ちゃんはまだまだ若くて綺麗だよ」と杏奈が言う。

「杏奈にこんな美人な叔母さんがいたんだね。お母さんも美人だけど」と恵が言う。

「ねっ、杏奈の一家ってみんな綺麗だよね。秘訣を教えて欲しいくらいだよ」と由佳が言う。

「麗奈さんは杏奈のことを見にきたんですよね? 杏奈はどうでしたか?」と恵が訊ねる。

「すごかった。わたしの姪っ子とは思えないくらい輝いていたよ」と麗奈は答える。

「で、ですよね! とても輝いていましたよね」と大きな声で綾乃が言う。自分の声に驚いた綾乃は恥ずかしそうにうつむいてしまう。

「そうかな? 結局、百メートル走は優勝できなかったけどね」と杏奈が言う。

「そ、それでも杏奈は輝いていた。まるで別世界の人間みたいだった。ダンスもとてもかっこよかった」と綾乃が言う。

「本当に。自分のことがみすぼらしいと思えるくらい、杏奈は輝いていた。すごいなと思ったよ」と麗奈は言う。

「で、です。わたしも自分のことがみすぼらしいと思えるくらい、杏奈が輝いて見えました」と綾乃がうなずきながら言う。

「わたしたち気が合うかもね」と綾乃を見ながら麗奈は言う。

「あ、ありがとうございます。麗奈さんみたいな綺麗な人にそう言ってもらえると、わたしも嬉しいです」と綾乃が言う。

「二人ともみすぼらしくなんかないよ」と杏奈が言う。

「杏奈がそれくらい輝いていたっていうことでしょう?」と恵が言う。

「綾乃だって輝いていたよ。二人三脚、わたし感動しちゃったもん」と由佳が言う。

「そ、そんなことはない。わたしがゴールできたのは恵のおかげだ。わたしは足を引っ張っていただけだ」と綾乃が言う。

「そうやって自分のことを卑下しないの。わたしたちは確かに輝いていた。だって、たくさんの人たちがわたしたちを応援してくれたんだから」と恵が言う。

「そ、それは確かに嬉しかった。みんながわたしのことを『綾乃ちゃん』って呼んでくれた」と綾乃が言う。

「綾乃ちゃんもとても輝いていたよ。わたしもあの時は感動した」と麗奈は言う。

「ねぇ、由佳のお母さんが作ったお弁当そろそろ食べよう」と杏奈が言う。

「そうだね。喋ってばっかりじゃなくて、そろそろ食べなきゃ」と恵が言う。

 そしてみんなは「いただきます!」と手を合わせる。

 それに遅れて、麗奈も小さな声で「いただきます」と言う。

 大きな弁当の中には、唐揚げやソーセージやだし巻き卵やトマトやブロッコリーがたくさん敷き詰められている。麗奈は美味しそうと思いながらだし巻き卵を一つ食べる。

「うまっ!」と麗奈は思わず声を上げる。その声にみんなは楽しそうな笑顔を浮かべる。

「そんなにおいしいの? 麗奈ちゃん。じゃあ、わたしもだし巻き卵を食べよっと」と杏奈が言う。「おいしい!」とすぐに杏奈は声をあげる。

「さすが、由佳のお母さんだね」と恵が言う。

「毎日こんなにおいしいごはんを食べられるんだから、わたしは幸せ者だよ」と由佳が言う。

「卵も美味しいけど、唐揚げも美味しい。こんなに美味しいものはそうそう食べられない」と綾乃が言う。

「だよね! 本当に美味しいよ。由佳のことがうらやましい」と杏奈が言う。

「いつでもウチにおいでよ。お母さんの美味しいごはんをいっぱい食べさせてあげる。ねっ、いいでしょう? お母さん」そう言って由佳は母親の方を向く。

「そうだね。杏奈ちゃんたちだったらいつでも招待してあげるわよ」と由佳の母親が言う。

 由佳の母親はおしゃれな巻き髪をしていた。爪が綺麗に切り揃えられている。

「やった! 楽しみだなぁ」と杏奈が嬉しそうに声を上げる。

 杏奈たちはみんな眩しい笑顔を見せている。そんな輝かしい青春の場面にいて、わたしだけが異質だと麗奈は思う。

 それでもみんなの輪の中に入れてもらっているだけで、わたしは青春を少しだけ取り戻せているような気持ちになってくる。

 気がつくと麗奈の表情にも笑顔がこぼれる。杏奈たちと話すのは楽しいと思う。

 もし、今みたいな楽しい気持ちを高校生の時にも味わうことができたなら。

 もし、杏奈たちのようにわたしを受け入れてくれる人がいたなら。

 麗奈はつい想像してしまう。でも、そんなことを考えてもしょうがない。

 過去はもう二度と戻ってこない。だから大切なのは、この先の未来をどう輝かせるかなんだろうと麗奈は思う。わたしはもう一度やり直せるのかな? 

 そう思いながら、麗奈は杏奈たちを見つめている。

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