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石黒杏奈と白木綾乃は知りたがり ③

 綾乃と杏奈は幼稚園からの幼馴染だった。綾乃は子供の頃から友達がいなかった。

 そんな綾乃を唯一気にかけてくれたのが杏奈だった。

 綾乃が一人で絵本を読んでいると「何を読んでいるの?」と声をかけてくれた。

 一人でごっこ遊びをしていると「わたしも入っていい?」と言ってくれた。

 杏奈にそうして声をかけてもらう度に綾乃は嬉しくなった。

「あ、ありがとう。声をかけてくれて」と実際に感謝を伝えることもあった。

 その度に杏奈は顔を赤くして言った。

「そんなことを言われると、わたしが嬉しくなっちゃうよ」

 杏奈は小さな頃からたくさんの友達がいた。いつも子供たちの中心にいた。

 そんな杏奈を見て、綾乃はすごいなぁと思っていた。

 輪の中心で笑顔を見せる杏奈がまぶしく見えて、時にはうらやましくも思った。

 わたしも杏奈みたいになれたら。それが小さい頃からの綾乃の思いだった。

 小学校に上がっても、綾乃は一人で過ごしていた。

 むしろ幼稚園の頃と比べて、ひとりぼっちに拍車がかかっているように思えた。

 杏奈と綾乃はいつも別々のクラスだったから、校内で一緒に過ごすことはあまりなかった。杏奈はたくさんの友達との付き合いで忙しそうにしていた。

 けれど下校になると、杏奈はいつも一緒に帰ってくれた。

「綾乃は親友だから、一緒になれる時間がないと寂しいんだ」と杏奈は言った。

 それが綾乃は嬉しかった。

 忙しい杏奈が少しでも自分に時間を割いてくれることが嬉しかった。

 時にはその思いを言葉にした。

「い、いつもわたしと一緒に帰ってくれてありがとう。杏奈がいるから学校に行くのが楽しいと思えるんだ」

「そう言ってもらえるとわたしも嬉しい。ありがとう、わたしと一緒にいてくれて」

「な、何を言っている。お礼を言うのはわたしの方だ。ありがとう」

 そうして小学生の二人は手を繋いで帰るのだった。

 けれど周囲の目もあって、成長するに従って手を繋ぐことは無くなった。

 そして中学生になると一時期、二人は疎遠になった。

 入学してすぐのある日、二人は喧嘩したからだった。

「あ、杏奈ってぜんぜん落ち着きがないよね。な、なんかの病気なんじゃないの?」

 ツッコミのつもりだった綾乃の不用意な一言が、杏奈を怒らせてしまった。

「なんでそんなことを言うの?」杏奈は涙を浮かべながらそう言った。

 二人はそれ以来、まったく口を聞かなくなった。一緒に下校することもやめてしまった。

 それから、綾乃は本当の意味でひとりぼっちになってしまった。自宅を出てから帰ってくるまで誰とも話さない日もよくあった。

 綾乃はしだいに追い詰められていった。孤独のつらさに耐えられなくなった。

 そして綾乃は学校に行けなくなってしまった。

 それまでは杏奈がいたから孤独になることはなかったけれど、杏奈と疎遠になると、綾乃は他の人たちとの関わりも失ってしまった。

 綾乃は一学期の夏休み前に不登校になった。

 そして二学期を迎えても、綾乃は学校に行くことができなかった。

 出口のない日々が綾乃にはつらかった。ただ生きているだけでつらいと思った。

 そんなある日、杏奈がいきなり家に押しかけてきた。

「綾乃、いますか?」そう言った杏奈は、何だか苛立っているように見えた。

「な、何の用だ」不意に玄関で鉢合わせした綾乃はそう言い返した。

 でも杏奈の顔をよく見ると、綾乃は驚いてしまった。

 杏奈は目に涙を浮かべていた。鼻水を垂らして、頬は赤く上気していた。

「ど、どうしたんだ、杏奈」綾乃は訊かない訳にはいかなかった。

「綾乃がいなくて寂しかったんだから!」と杏奈は大声で言った。

 杏奈はいきなり綾乃に抱きついた。そして声を上げて泣きはじめた。

「ごめんね、綾乃。今までひとりぼっちにさせて」杏奈はそう言った。

「わたし、今になってようやく思い出したの。ひとりぼっちになることのつらさを。わたし、学級会でみんなと喧嘩して。みんなが真面目に話し合わないと思って、怒っちゃって。それでクラスにいづらくなっちゃったの。それでわたし、思い出したの。ひとりぼっちってこんなにつらいんだって。そんな思いを、綾乃が今までずっとしていたんだって思ったら、申し訳なくなっちゃって。今までひとりぼっちにさせてごめんね」

「あ、謝らないで。悪いのはわたしなんだから。そう言ってくれてありがとう」

 二人は和解のしるしとして抱き合った。

 そして今、杏奈の部屋で過ごす二人も抱き合っている。

 二人は裸になって、ベッドで横になっている。

 お互いの顔を見合うと、そっと口づけをする。

 二人はお互いの下半身も確かめ合う。しだいに体が火照っていく。

 綾乃は経験したことのない快楽を感じる。

 杏奈も感じているのか、口が半開きになっている。

 やがて綾乃の体を快感が貫く。「あっ」と二人は同時に声を上げる。

 気がつくと二人とも全身に汗をかいて、荒い呼吸をしている。

 疲れた綾乃はふと冷静になって杏奈を見る。杏奈も疲れた表情をしている。

 そんなお互いを見て、二人はなぜか笑いが込み上げてくる。

「わたしたち、何をやっているんだろうね」杏奈は笑いながら言う。

「あ、杏奈の方が先にしてきたんだからな」綾乃は口を尖らせる。

「あら、じゃあしない方がよかったの?」杏奈は意地悪そうな笑顔で尋ねる。

「そ、そう言う訳じゃないけど。気持ちよかった。なんだか幸せな気持ちになった」

「わたしも! こんなわたしのことを受け入れてくれてありがとう。本当はちょっと怖かったんだ。こんなことをして、嫌われちゃったらどうしようって。でも、どうしても我慢ができなかった。どうしても綾乃とひとつになりたいって思ったんだ」

「そうだったんだ。わたしはむしろ嬉しかった。ありがとう、杏奈。わたしを幸せな気持ちにしてくれて。これからも杏奈とずっと一緒にいたい」

「ありがとう」そう言った杏奈は目に涙を浮かべていた。

 それから綾乃は風呂を借りると、杏奈のスポーツブラとパジャマを着る。

 普段は猫背のせいで綾乃の方が小さく見えるけれど、実際の身長はほとんど同じだった。

 杏奈の服のサイズは綾乃にもぴったりだった。

 パジャマを着た綾乃は、杏奈に包まれているような気がして嬉しくなる。

 二人はそれから寝る時も一緒に抱き合っている。お互いの吐息を感じながら。

 やがて体が世界に溶けていくような不思議な感覚の中で、綾乃は眠りにつく。

 気がつくと綾乃は朝を迎えている。伸びをして綾乃は目を覚ます。

 一緒に眠っていたはずの杏奈は隣にいない。そのことで綾乃は混乱してしまう。

 杏奈はどこに行ったのだろう。わたしはもうひとりぼっちにはなりたくないのに。

 でも、杏奈はすぐに戻ってくる。杏奈は二人分のミルクが載ったお盆を持っている。

「おはよう、綾乃」そう言った杏奈の顔は、今まで見た中でいちばん穏やかだった。

 そして綾乃も、今までに経験したことのない穏やかな気持ちになっていた。

「おはよう、杏奈。飲み物を持ってきてくれてありがとう」

「どういたしまして。一緒に飲もう」

 二人はゆっくりとミルクを口に入れていく。温かいミルクが体の奥を流れていく。

 わたしは幸せだと綾乃は思う。杏奈がいれば、わたしは安心して生きていくことができる。

 この先もずっと杏奈と一緒にいたいと思う。

「この先もずっと綾乃と一緒にいたい」と杏奈が言う。

 二人はお互いの顔を見て、ケラケラと楽しそうに笑い合う。

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