表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/40

石黒杏奈の誕生日 ②

 部屋のノックが鳴って「準備ができたよ」という俊一の声がする。

 抱き合っていた杏奈と綾乃は慌ててお互いに距離をとる。二人は裸になっている。

「あ、ありがとう。ちょっと待っていてね」と杏奈は言う。少しだけ声がうわずっている気がする。二人は急いで服を着る。俊一の足音は離れていく。

「びっくりしたね」と杏奈が言う。

「危ない。見られたらまずいところだった」と綾乃が言う。

「鍵を閉めているから大丈夫だよ」と杏奈は言う。でも、心のどこかで杏奈は思う。

 家族になら別に見られても良かったんだけどな。むしろ、いつかわたしたちの本当の関係を知ってほしいと思う。そしてわたしたちの恋愛を認めてほしいと思う。

 その思いを杏奈は心の奥底にとどめておく。今はまだ早いのかもしれない。

 綾乃がピンク色のワンピースを着ているのを見て杏奈は言う。

「今日の綾乃は可愛いね。いつもはジャージばっかり着ているから」

「今日は杏奈の誕生日だから、特別にいつもはしないおしゃれをしてみた。可愛いって言ってくれてありがとう。杏奈もオレンジのパーカー可愛いよ」

「そう言ってくれてありがとう。お気に入りのパーカーなんだ」

 そして二人は部屋を出る。杏奈が階段を降りていき、綾乃はそれについていく。

 リビングに行くと、部屋の壁には飾り付けがしてある。

「たんじょうびおめでとう」という文字の切り抜きと、その下には「16」という形の風船がある。その周りにも大小の風船が装飾されている。

 そしてダイニングテーブルの上には、いちごの白いホールケーキと人数分のチキンが置かれている。ケーキにはたくさんのろうそくが刺されている。

「杏奈ちゃん、誕生日おめでとう!」俊一と清華が声を合わせる。

 俊一は頭にとんがり帽子をかぶってクラッカーを鳴らす。

「ありがとう!」と杏奈が応える。

 テーブルの上のケーキとチキンを見て、杏奈は目を輝かせる。

「おいしそう! 用意してくれてありがとう!」

 そこで綾乃も負けじと言う。「杏奈、誕生日おめでとう」

「ありがとう、綾乃。今年も一緒に祝ってくれて」と杏奈は応える。

 そして杏奈と綾乃は、隣同士の席につく。杏奈の前には俊一が、綾乃の前には清華が座っている。机に向かって左に杏奈が、右に綾乃が座ることになる。

「杏奈に僕たちから誕生日プレゼントがあるよ」と俊一が言う。

 そして清華が、リボンでラッピングされた箱を杏奈に渡す。

「ありがとう!」と杏奈が言う。「さっそく開けてもいい?」

「いいよ! 杏奈が喜んでくれたらいいんだけど」と俊一が言う。

 杏奈が箱を開けると、そこには新品の真っ白なランニングシューズがある。

「わたしが好きなメーカーのやつだ! ちょうど今のシューズが古くなっていたから、新しいシューズが欲しかったんだよね。お父さんもお母さんもありがとう!」

「良かった。わたしと俊一がたくさん相談して選んだのよ」と清華が言う。

「高性能でとても履き心地のいいシューズらしいよ。杏奈に足を大切にしてほしいから選んだんだ」と俊一が言う。

「ありがとう。大切に使うね」と杏奈が言う。

「むしろ遠慮せずにたくさん履き潰してほしいよ」と俊一が言う。

「じゃあそうする。いっぱい履いていっぱい走るね!」と杏奈が言う。

「わたしからもうひとつ誕生日プレゼントがある」と綾乃が言う。

「チョコレートの他にもプレゼントがあるの?」と杏奈が訊く。

「そうだ」と言って、綾乃はリュックサックからプレゼントの袋を取り出す。

「開けてもいい?」と杏奈が言う。「もちろん」と綾乃が言う。

 杏奈が袋を開けると、そこにはスポーツウェアの青色のTシャツがある。

「わたしが好きなブランドの服じゃん! スポーツウェアはいくらあってもいいからね。このTシャツとっても可愛い! ありがとうね、綾乃」

「実はわたしの分もお揃いで買ってあるんだ。わたしは赤色にした。わたしは運動をほとんどしないけど、普段使いにしても可愛いと思うんだ」

「確かにそうだね。今度どこかに出かける時は一緒に着ようね!」

「そ、そうしよう。楽しみだ」と綾乃が言う。「わたしも!」と杏奈が言う。

「じゃあロウソクに火をつけるね」と俊一が言う。マッチを取り出して火をつける。

 ホールケーキに刺されている十六本のロウソクに火が灯る。

 そこで清華が部屋の電気を消す。ロウソクの火の明るさが強調される。

「ハッピーバースデートゥーユー」俊一と清華が歌い出す。それに合わせて綾乃も歌う。

 歌い終わると「誕生日おめでとう、ロウソクを吹き消して」と俊一が言う。

 それを合図に、杏奈はロウソクに息を吹きかける。全ての火が一度で消える。

「さすが杏奈、一気に火を吹き消したね」と俊一が拍手をして言う。

「日頃の運動の賜物ね」と清華が言う。「すごいぞ、杏奈」と綾乃が言う。

「まあね。杏奈さんを舐めてもらっては困るよ」と杏奈が応える。

 それから俊一はホールケーキを八等分に切り分ける。そのうち四つをそれぞれの皿に置いていく。「食べきれない分は明日にでも食べよう」と俊一が言う。

「わたしは余裕で食べ切れるけどなぁ」と杏奈が言う。

「楽しみは後に取っておくものよ」と清華が言う。「はぁい」と杏奈は応える。

 四人は「いただきます」と声を合わせ、ショートケーキとチキンを食べ始める。

「おいしい! これならいくらでも食べられそうだ」と杏奈が言う。

「さすが、杏奈は食いしん坊だなぁ」と俊一が言う。

「杏奈が食べている姿を見ると私たちも幸せになるわ」と清華が言う。

「あ、あんまり食べすぎると太るぞ」と綾乃が言う。

「運動しているから大丈夫だよん」と杏奈は頬張りながら応える。

 みんなが食事を終えると、俊一は姿勢を正して杏奈に言う。

「杏奈に言っておきたいことがあります。僕たちの家族になってくれてありがとう」

「杏奈がわたしたちの家族になってくれて、わたしたちはとても幸せです」と清華も言う。

「こちらこそ、わたしを家族にしてくれてありがとう。お父さんとお母さんがわたしを家族にしてくれたから、わたしは元気に過ごしています」と杏奈は応える。

 そうなのだ。お父さんとお母さんがいなかったら、わたしは今頃どうなっていたのか分からない。紛れもなくお父さんとお母さんがわたしを救ってくれたのだ。

 わたしはお父さんとお母さんにこれ以上ないくらい感謝している。

 その気持ちは決して忘れてはいけないものだとわたしは思う。

 わたしは孤独だった幼少期に思いを馳せる。そんなわたしにお父さんやお母さんが手を差し伸べてくれたのだ。そして綾乃がわたしに光をもたらしてくれたのだ。

 杏奈は心の中で改めて「ありがとう」と言う。そして自然と笑顔がこぼれる。

 そんな杏奈の笑顔を見て、他のみんなも笑顔になる。

 杏奈は立ち上がって俊一のそばに移動すると、その頬に感謝の口付けをする。

「おっ! 嬉しいねぇ。ありがとう、杏奈」と俊一が言う。

 それから清華のそばにも移動して、その頬にも感謝の口付けをする。

「ありがとう、杏奈。これからもよろしくね」と清華が言う。

 そして杏奈は席に戻ると、隣にいる綾乃の頬にも口付けをする。

「ありがとう。綾乃にもたくさん感謝しているよ」と杏奈が言う。

「何を言っている。感謝するのはわたしの方だ」綾乃は頬を赤らませて言う。

「改めて、誕生日おめでとう!」と俊一が拍手をしながら言う。

「誕生日おめでとう。これからも杏奈が幸せに過ごせますように」と清華が言う。

「杏奈、誕生日おめでとう。わたしはこれからも一緒にいるよ」と綾乃が言う。

「みんなありがとう。みんながいてくれて、わたしは幸せ者だよ」と杏奈が応える。

 杏奈の目にはいつの間にか涙が浮かんでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ