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老人と犬、そして戦争 ③

 翌日、杏奈は一人で登校している。祝日で学校の授業がないので、綾乃は家にいる。

 今日は午前中だけバスケ部の練習がある。午後は学校の都合で休みになる。

 杏奈は午後から綾乃たちと図書館に行く予定だ。戦争という理不尽がどうして起きてしまうのかを調べるために。

 いつもは隣に綾乃がいるから、こうして一人で歩いていると寂しさを感じる。

 わたしにとって綾乃は欠かせない存在なのだと、一人になると実感する。

 綾乃と手を繋ぎたい。そんな思いが杏奈の心の中に生まれる。

 そこで杏奈は、犬を連れた源三郎に再会する。老人は今日もまっすぐな姿勢で歩いている。大きな犬は舌を出して楽しそうに歩いている。

「おはようございます。タロウは今日も可愛いですね」杏奈は源三郎に声をかける。

「そうですね。今日も元気に歩いていて、私にとっては心強い限りです。それにしても気持ちの良い朝ですね。外にいるだけで元気が出てきます」

「そうですね。何だか深呼吸がしたくなります」

 そう言って杏奈は実際に深呼吸をする。「とっても気持ちがいいです」

「ところで、今日は杏奈さんお一人での登校ですか?」と源三郎が尋ねる。

「そうです。今日は授業がなくて部活だけなので、綾乃はお家にいます」

「いつも二人で一緒にいるので、何だか寂しいですね」

「そうなんです。今日みたいなわたし一人だけの日は、かえって綾乃の大切さを実感します。もうすでに綾乃に会いたくなっているくらいなので」

「それほど大切なお友達に出会えたことは、とても幸せなことですね」

「はい。わたしにとって人生でいちばん大切な存在です。これからもずっと二人の絆を大切にしていきたいと思っています」

「今日は祝日ですが、一日ずっと部活動なんですか?」

「いえ、今日の部活は午前中だけです。午後からは綾乃たちと図書館に行く予定です」

「なるほど、皆さんでお勉強ですか。素晴らしいですね」

「学校の勉強をする、という訳ではないんです。わたしの疑問をみんなで調べに行くんです。どうして戦争という理不尽が起きてしまうのか?」

「戦争ですか……それは確かに理不尽です。戦争は私の人生を大きく歪めました」

「そうなんですか……それはわたしなんかがお聞きしてもいいお話ですか?」

「もちろんです。むしろ、若いあなた方にこそ聞いて欲しい。私は戦争孤児なんです。戦争で家族をみんな失いました。当時子供だった私の目の前で亡くなったのです」

「そうなんですね……もしよければ、詳しい話をわたしだけでなくみんなで聞いてもいいですか? 今日は綾乃とわたしを入れた四人で集まる予定なんです」

「もちろん構いませんよ。皆さんを私の家に招待します。もしあなた方が良ければのお話ですが……」

「ありがとうございます。きっとみんなの為になると思います」

 杏奈は源三郎と別れると、四人のグループにスマホでメッセージを送る。

「わたしの知り合いのおじいさんが戦争について話をしてくれることになったんだ。図書館に行った後、みんなで話を聞きに行かないか?」

「もしかして源三郎さんのことか?」綾乃がすぐにメッセージを返す。

「そうだよ。源三郎さんが家に招待してくれて話を聞かせてくれるんだ。源三郎さんというのは毎朝わたしたちが登校する時に会うおじいさんだよ」

「それはまたとない貴重な機会だな。もちろんわたしも聞きに行くよ」と恵が返す。

「わたしもぜひ聞きに行きたい。本で調べる以上に勉強になりそう」と由佳も返す。

 そうして四人は源三郎の家に話を聞きに行くことになる。

 午後になって四人は西宮北口駅の北口に集合する。

 これから四人で図書館に行く。

 杏奈が言う。「今日は祝日なのに集まってくれてありがとう」

「何を言っているんだ。こうして四人で集まることが楽しいんだよ」と恵が言う。

「そうだよ。わたしは今日をすっごく楽しみにしていたんだよ。お休みの日にみんなに会えるなんてワクワクするよ」と由佳が言う。

「そ、そうだ。わたしもとっても楽しいぞ」と綾乃が言う。

 今日は学校が休みだけれど、部活があった杏奈と恵に合わせて、四人とも制服を着ている。今日はみんなで戦争について勉強をするのだ。

 四人は駅のコンコースを歩いて市立図書館に向かう。その途中にマクドナルドがある。

 看板を見て杏奈は言う。「美味しそうだなぁ」

「さっき一緒にラーメンを食べたばかりじゃないか」と恵が言う。

「でも、フライドポテトは別腹だと思うんだよね」と杏奈が言う。

「ダメだ。今日の目的をさっそく見失っているじゃないか。杏奈が自分で言い出したんだぞ。わたしたちは図書館に行くんだって」

「ちぇ、分かったよ。今日はなんとか我慢するよ。源三郎さんとの予定もあるしね」

「そうだよ。今日のわたしたちは意外とタイトスケジュールなんだ」

 そして四人は図書館に着く。駅に隣接する商業施設の五階が図書館になっている。

 四人は思い思いに本を探す。杏奈も本を探すが、なかなか目ぼしいものが見つからない。

 そこで杏奈は司書さんに尋ねることにする。

「ひとはなぜ戦争をするのか。それを知りたくて本を探しにきたんですが、何か良い本はありませんか?」

「少々お待ちくださいね……それならちょうど良い本があります。その名も『ひとはなぜ戦争をするのか』これは、かの有名な物理学者のアインシュタインが、心理学者のフロイトと交わした往復書簡を本にしたものです。二人の天才が戦争に対する考えをまとめたもので、あなたが知りたい答えが書いてあるかもしれません。短い本なのですぐに読めると思いますよ」

「ありがとうございます。さっそく読んでみようと思います」

 そうして、杏奈は司書さんが持ってきてくれた「ひとはなぜ戦争をするのか」を読むことにする。百ページにも満たない本なので一時間くらいで読み終えてしまう。

 杏奈は本を読んで知ったことをメモにまとめる。これで全てがわかった訳じゃないけれど、杏奈は何かを掴んだような気がしている。

 午後四時になるとみんなは再び集合する。

 図書館を後にすると、マクドナルドで休憩することになる。

 杏奈はフライドポテトとコーラを、他の三人はそれぞれにジュースを注文する。

「相変わらずよく食べるな」と恵が言う。

「い、いつものことだ」と綾乃が言う。

「一口食べる?」と杏奈がフライドポテトを一本差し出す。

「あ、ありがとう」と言って恵はそのフライドポテトを口に加える。

「ところで、杏奈が知りたいことは知れたの?」と由佳が言う。

「うん。完璧ではないけど、重要なことが知れたと思う。司書さんが良い本を紹介してくれたんだ。すでに読んでしまったけど、もう一度読みたいと思って借りてきた」

 そう言って杏奈は「ひとはなぜ戦争をするのか」をカバンから取り出す。

「ど、どんな内容だったんだ?」と綾乃が尋ねる。杏奈はメモを見ながら答える。

「ひとはなぜ戦争をするのか。それは、人間には攻撃的な本性があるからだと言うのがこの本に書いてあることだ。フロイトによると人間には二つの欲動がある。生への欲動エロスと死への欲動タナトスだ。言い換えると、愛と攻撃性ということになる。そもそも人間にはものごとを破壊したいという欲望が備わっている。人間の攻撃性はなくならない。だから人間は戦争を起こしてしまうというんだ。でも、人間にはその攻撃性に抗う方法がある。それが愛なんだ。誰かと一つになりたい、気持ちを共有したいという心の絆が、戦争を阻むことになるんだ。他にもいろいろ難しいことが書いてあったけど、わたしがこの本を読んで学んだのは、戦争をなくすには、人間の攻撃性に抗うには、わたしたち一人ひとりが身近な人たちを大切にすること、その輪を広げていくことしかないんだと思うよ」

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