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老人と犬、そして戦争 ②

「ねぇ、戦争ってどうして起こるんだろうね?」

 下校中のファミレスの席で杏奈は言う。そのファミレスは西宮北口駅の近くにある。

 奥のソファ席に四人は座っている。それぞれが注文をしたところだった。

「急にどうしたんだ?」と恵が尋ねる。

「気になっちゃったんだな」と綾乃が言う。

「そう。気になっちゃったの。昨日、わたしの家で綾乃と一緒に戦争映画を見てね。それから戦争のことが頭から離れないの。なんであんな悲惨なことが起きるんだろうって。わたし映画を観ながらつらくて泣いちゃったんだよ」と杏奈が言う。

「それで気になっちゃった訳か。それはとても難しい問題だね」と由佳が言う。

「杏奈はよく難しい問題の答えを知りたがるよな」と恵が言う。

「昔からそうだ。杏奈の疑問にはまともに答えられたことがない」と綾乃が言う。

「成績優秀な綾乃ですら答えられないのなら、わたしにも無理だぞ」と恵が言う。

「そんなことを言わず、一緒に考えてくれよ。わたしは戦争のことが気になってしょうがないんだ。それで昨日は五時間しか眠れなかった」と杏奈が言う。

「五時間は割と眠れているんじゃないか?」と恵が言う。

「ち、違うんだ、恵。杏奈は八時間睡眠が基本なんだよ」と綾乃が言う。

「そうだよ。わたしはいつも夜十時には寝て、朝六時に起きているんだ。それなのに、昨日は深夜まで眠れなかった。綾乃の方が先に寝ていたくらいだよ」と杏奈が言う。

「そんなにショッキングな戦争映画だったの?」と由佳が尋ねる。

「わたしたちが観たのは『火垂るの墓』だよ。子供の頃にも観たことがあるはずなんだけど、改めて観てみたら戦争の理不尽さを痛感して、つらくなってしまったんだ」

 杏奈が険しい表情でそう言うと、綾乃も続ける。

「わ、わたしは初めて観たんだけど、一緒に『火垂るの墓』を観ていたら、二人ともいろんなことを考え込んでしまったんだ。あれはつらい映画だった」

「なるほど、それで戦争という理不尽がどうして起こるのか、杏奈たちは気になってしまったんだな」恵が納得する。

「き、気になっているのは主に杏奈の方だ。わたしはどちらかというと、世の中なんてそんなものだと悲観的に考えているからな。戦争という理不尽を包み込んでこそ世界なんだとわたしは思っている」綾乃はそう補足する。

「わたしはそんなの嫌だよ。戦争なんてこの世から無くなってほしいとわたしは本気で思っているよ」杏奈は頬を膨らませながら言う。

「わたしだって戦争なんてあってたまるものかと思っている。でも、不完全な人間のやることだから、そうそう上手くはいかないとも思っているだけだ」綾乃は言う。

「綾乃は戦争があっても仕方がないと考えているの? わたしはどうしてもそんな風には割り切れないよ」杏奈が悲しそうに言う。

「ご、ごめん。悲しい出来事をそういうものだって割り切ってしまう自分が本当は嫌なんだ。杏奈みたいに、戦争なんて絶対に駄目だと憤っている方が健全なんだとわたしは思う」

 綾乃は背中を丸めて言う。

「こちらこそ、ごめんね。綾乃を責めるつもりは全くないんだ。世の中はそういうものだって割り切れない自分の方がまだまだ子供なんだって思う。綾乃はわたしよりもずっと大人だよ」 

 杏奈がフォローするように言う。

「そんなことない。世の中の理不尽をちゃんと疑問に思うのが杏奈の素晴らしいところだよ。わたしは杏奈のそう言うところを尊敬しているんだ」と綾乃が言う。

「二人ともお互いのことを尊重していて何だか良いな」と恵が言う。

「ね、二人とも相手のことをちゃんと思いやっているんだよね」と由佳が言う。

「そうだ、明日はちょうど祝日だし、みんなで図書館に調べに行くのはどうかな?」と杏奈が提案する。「みんなの予定が空いていればの話だけど」

「それは良いね。ちょうど駅の北口に図書館があるもんね。わたしの予定は空いているよ」と由佳が言う。

「わ、わたしも大丈夫だ。休みの日は基本的に何も予定がない」と綾乃が言う。

「わたしと杏奈は午前中に部活があるけど、午後なら大丈夫だよ」と恵が言う。

「じゃあ決まりだね。明日の午後二時に駅の北口に集合でいいかな?」

 そうして四人は明日の祝日もみんなで集まることになる。

「ところで、今日みんなに集まってもらったのには他に理由があるんだ」

 杏奈が背筋を伸ばして切り出す。他のみんなも釣られるように背筋を伸ばす。

「実はわたし五月五日が誕生日なんだ。その日は毎年、家族と誕生日会をしているんだけど、今年はみんなにも参加してほしいと思うんだ。そしてお昼に誕生日会をしたあとは、みんなで六甲山の掬星台に行きたいんだ。そこでみんなと一緒に綺麗な夜景を見てみたいんだ」

「わたしも毎年、杏奈の誕生日会に参加しているんだけど、今年は恵や由佳がいた方が楽しいだろうなって思うんだ。ど、どうかな?」と綾乃が補足する。

「ごめん、その日はすでに予定があるんだ。他の友達と遊ぶ約束をしている。だから誕生日会は行けそうにない。でも夜は予定がないから、一緒に夜景は見に行けるよ」と恵が言う。

「わたしもその日は家族とお出かけするんだ。だからお昼の誕生日会には行けない。でも夕方には帰ってくるから、わたしも夜景は一緒に見に行けるよ」と由佳が言う。

「そうか。じゃあ例年通り、誕生日会は家族と綾乃だけでやるよ。その代わり、夜景は四人で一緒に見にいこう」と杏奈が言う。

「そうしよう」と綾乃も言う。

 そこで注文していた料理が届く。杏奈が注文したチョコバナナパフェと、全員でシェアするために綾乃が注文したフライドポテトだった。

「美味しい!」と言ってチョコバナナパフェを食べながら、杏奈は今朝のことを思い出す。

 昨日の下校中に出会った老人と犬に、今朝も再会したのだった。

 杏奈は綾乃と一緒に、夙川沿いの並木道を歩いていた。そこに、向こうから見たことのある老人が犬を連れて歩いてきた。杏奈はその老人に声をかけた。

「おはようございます! 昨日もお会いしましたよね。いつも朝はこれくらいの時間にお散歩されているんですか?」

「あぁ、昨日の元気なお嬢さん、おはよう。そうですよ。いつも朝の八時になると犬を連れて散歩しています。お嬢さんたちはいつもこの時間に登校ですか?」

「そうなんです。朝の八時半が始業時刻なので、いつもこれくらいの時間に登校しています。わたしたちは毎朝こうして一緒に登校しているんですよ」

「お、おはようございます。杏奈とはクラスがバラバラなので、できるだけ一緒に過ごす時間を作ろうと思っていつも一緒に登校しています。家がとても近所なんです」

 綾乃がそう言うと、杏奈は一礼をして言葉を続ける。

「自己紹介をしていませんでした、すみません。わたしは石黒杏奈と言って、近くの桜桃高校に通っている高校生です。よろしくお願いします」

「同じ高校に通っている白木綾乃と言います。よろしくお願いします」

 綾乃も老人に頭を下げる。老人はそれに応えるように自己紹介をする。

「私は、夙川沿いに住んでいる山本源三郎と言います。昭和十五年の元旦生まれの老人です。毎朝この時間に犬のタロウを連れて散歩しています。普段は体力の関係で朝しか散歩をしないのですが、昨日は天気が良かったので午後も散歩に出ていました。もしかすると我々は今までもすれ違っていたのかもしれませんね」

「確かにそうかもしれませんね! 犬のタロウちゃん、可愛いですね! これからもよろしくお願いします、源三郎さん」と杏奈が言う。

「杏奈さんと綾乃さんもよろしくお願いします。若い人たちと話すと何だか元気が出ますね」源三郎がそう言うと、三人は会釈をしてそれぞれの方向に歩き出した。

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