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交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~  作者: 当麻月菜
嘘が速くとも、真実はこれを追い抜く

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13

 真澄がリビングに戻ってきたのは、時間を持て余した菜穂子がコーヒーを淹れ終えてすぐだった。


「お、ナイスタイミング。コーヒーできたよ」

「……ああ」

「ん?スポドリか水の方が良かった?」

「いや、菜穂ちゃんの淹れたコーヒーが飲みたい」


 何度も繰り返してきた日常会話なのに、今の真澄は噛み締めるように言った。とてつもなく嫌な予感がする。


 でも菜穂子はすぐに問いただすことはせず、ソファに並んで座ってコーヒーを飲む。こっちだって心の準備が必要なのだ。


 とはいえ、互いに黙ってコーヒーを啜る時間は、なかなか辛いものがある。


「……まあ君、お腹空いてない?」


 耐え切れなくなった菜穂子がそう問いかければ、真澄はゆるく首を横に振った。


「いや。菜穂ちゃんは?」

「あー、私は事務所でヒイラギフーズのカップ麵食べたから平気」

「そうか。今日はデザートを買ってこなくて悪かったな」

「いいよ、そんなの気にしないで。それよりも、さ……」


 マグカップをローテーブルに置いた菜穂子は、真澄を真っすぐ見つめる。


「私に何か言いたいこと、あるんだよね?」

「っ……!」


 不意を突かれたかのように小さく息を吞んだ真澄だが、すぐに口を開いた。 


「菜穂ちゃん、今すぐ離婚しよう」

「っ……!」


 今度は、菜穂子が息を吞んだ。


 ずいぶんと長いシャワー時間だったけれど、まさか風呂場でそんなことを考えていたとは。


「どうして?あと一ヶ月もすれば、離婚するんだよ?それなのに……」

「すまない。財産分与は当初の予定より多く支払うつもりだ。このマンションも菜穂ちゃんにやる。だから──」

「だからじゃない!」


 強く遮った菜穂子は、真澄の肩をガシッと掴む。


「私は離婚したい理由を訊いてるの!財産分与のことなんてどうでもいい!」

「……っ」

「言えないの?それとも言いたくないの?」


 口を貝のように閉ざした真澄に、菜穂子は泣きそうな顔になる。


「ド庶民の家庭の女と早く縁を切りたくなった?」

「まさかっ」

「じゃあ、私が男二人をぶちのめすことができる女だから幻滅した?」

「そんなわけあるか!」

「なら、ちゃんと教えてよ!!」


 悲鳴に近い菜穂子の叫びに、真澄の肩がビクッと震える。


 なんだか酷い仕打ちをしているように見えるが、泣きたいのはこっちのほうだ。


「まあ君……理由を教えてくれたら、ちゃんと離婚届書くから……そうじゃないと、私はずっと悩むし、後悔し続けるし……これから先、前に進めないよ……」


 感情が昂った菜穂子の目は涙で潤んでいるし、声だって震える。


 力任せに掴んでいる肩には指が食い込んでるから、真澄はすごく痛いはずだ。けれど、されるがままになっている。


 それは、真澄の優しさだ。でも今は、別のところにその優しさを向けて欲しい。

 

 その願いが通じたのか真澄は一度目を閉じ、すぐに目を開けて──菜穂子を優しく抱き寄せた。

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