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「なほ姉、食べよ!」
菜穂子が幹久を見つめながら回想しているうちに、瑞穂は三人分の料理を取り分けてくれていた。
ただよく見ると、瑞穂の皿にだけピザが多い。気が利くけれど、ちゃっかりしている瑞穂に、菜穂子はますます虜になりそうだ。
「それじゃあ、いただきまーす!」
三人で両手を合わせてそう言って、フォークを持つ。
菜穂子が選んだこの店は、サイトで高評価を得ていた。値段はそこそこするが、評価通りの味で菜穂子はホッとする。
瑞穂と幹久の口にも合っているようで、二人は気持ちいい食欲を見せてくれている。
「あ、なほ姉。なほ姉んとこ叩いた会社の人、左遷されたって」
あっという間に前菜を食べ終え、ピザを2切れ食べ終えた瑞穂は軽い口調でそう言った。
反対に菜穂子は、パスタを巻き付けたフォークを持ったまま目を丸くする。
「え!?そうなの!?」
「うん。来月から地方の営業所に転勤だって」
「おいそれ、確かな情報なのか?」
二人の会話を聞いていた幹久に尋ねられた瑞穂は、フンッと鼻を鳴らす。
「あったり前じゃん。うちの情報網を舐めないでよね」
「……お前、学校で何やってんだよ。ちゃんと勉強してんのか?」
呆れ顔になる幹久に、瑞穂は口を尖らす。
「してるよ。ただあんまり私が優秀だと、色々面倒なことになるからセーブしてんの」
吐き捨ててジュースをグビグビ飲み出す瑞穂に、菜穂子はかける言葉が見つからない。
今回の盗作疑惑が訴訟までいかずに済んだのは、幹久が尽力してくれたのもあるが、瑞穂の力も大きい。
瑞穂の通う学校は所謂”お嬢様学校”で、生徒は富裕層の家庭が多く占められている。その中で瑞穂は持ち前のビジュアルを活かし、友人知人から企業情報を引き出したのだ。
無論、高校生が知っている情報などたかが知れている。しかし瑞穂は頭が切れる。引き出した情報から、点と点を線につなげて、こちらに有利な情報を色々与えてくれた。
けれどその能力は、柊木家にとったら不要らしい。瑞穂もまた、愛人の娘だから。そして女の子だから。時代錯誤も甚だしい理由で、瑞穂が蔑ろにされるのはとても腹が立つ。
「なほ姉、顔怖い」
瑞穂の言葉で、我に返った菜穂子は空いてる方の手を自分の頬に当てる。
「ごめん、タバスコかけすぎたみたい」
「へぇー、このテーブルにタバスコなんてないですけどね」
すかさず突っ込みを入れられ、菜穂子は心の中で「黙れ!幹久」と唸る。
瑞穂といえば、菜穂子と幹久を交互に見て表情を柔らかくした。
「へへっ……なほ姉ってば、ほんと優しいね。でも心配しないで。うち、しっかり親のすね齧って留学して、将来自分のブランド立ち上げて、最終的に店の資金出させるつもりだから」
壮大なプランを聞かされて、菜穂子はひとまず安堵する。でもすぐ心の中がモヤモヤする。だからって、瑞穂が虐げられていい理由にはならない。
そんな気持ちが、顔に出ていたのだろう。瑞穂は、表情を険しくした。
「言っとくけど、うちは自分のこと不幸だなんて思ってないよ。むしろ恵まれてるって思ってる。なほ姉だって味方でいてくれるし。ってことでこの話はもう終わり!いいよね」
強く同意を求められて、菜穂子は頷くしかない。
「わかった。あ、これだけは言わせて。瑞穂ちゃんがお店出したら、私、一番に行くから」
「マジで!?嬉しい!うち頑張るね」
ぱぁあああっと顔を輝かせた瑞穂があまりに可愛くて、菜穂子は奮発してピザとパスタのお代わりを注文した。




