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ノベルティの盗作は、もちろん冤罪である。しかし弱小デザイン事務所VS大手企業の争いは、どれだけ違うと訴えても菜穂子の方が分が悪い。
しかも訴えてきた大手企業は、純玲の息がかかった会社だった。
これは絶対に私情が入っているとわかったが、これまでクリーンすぎるほどクリーンに経営してきたデザイン事務所はどうやって戦っていいのかすらわからない。
ひとまず弁護士を依頼して対策を練ろうとしたけれど、所長の知人から紹介された弁護士は相手が大手企業と知った途端、及び腰になる始末。マジで役に立たなかった。
やっと軌道に乗り始めたというのに、ここでまさかの経営危機。ふくよか体型の所長が、日に日にスリムになっていくのを目にした菜穂子は、もういっそ自分が退職すれば丸く収まるのではないかと、投げやりな気持ちになってしまっていた。
そんな風に思いつめ、いつ辞表を出そうかと悩み始めた頃、幹久と瑞穂が菜穂子に救いの手を差し伸べてくれたのだ。
「──ほんっっっとぉぉぉーーに、ありがとうございました!」
注文した料理が大体揃ったのを機に、菜穂子は瑞穂と幹久に深々と頭を下げた。
すぐに瑞穂が「なほ姉ぇー、もぉーやめてよ」と言いながら、テーブルをバンバン叩く。
「お礼なんていらないよ。うちと、なほ姉の仲じゃん!」
「どんな仲なんだよ」
「おにぎり!」
「はぁ?」
意味が分からないと眉間に皺を寄せた幹久だが、顔を上げた菜穂子と目が合うとプイッと目を逸らした。
「あー、みき兄、照れてるぅ」
「照れてないし」
「うっそぉー。耳、めっちゃ赤いし」
「うるさい。暑いだけだ」
「ふぅーん、かっわいいー」
「黙れ」
妹の弄りに、幹久は鬱陶しそうにするが本気で嫌がってはいない。複雑な事情を抱えている柊木家だが、兄弟仲は相変わらず良いようだ。
「幹久さんもありがとう。幹久さんのお陰で、うちの事務所は訴訟回避できたよ。本当に感謝してる」
「そんな大袈裟な。別に大したことしてないですから」
ツンデレ発言をする幹久に、菜穂子はつい「ふふっ」っと笑いを零してしまう。
幹久は大したことはしていないと言ったが、とんでもない。所長の知人から紹介された弁護士より1000倍頼りになった。
わざわざデザイン事務所まで足を運んでくれ、ビビりまくるスタッフに「違法性はないんで毅然とした態度でいてください!」と一喝し、想定問答まで用意してくれた。
あの時の幹久の冷たい視線で、スタッフ全員が冷静さを取り戻すことができた。
その後、所長は幹久から連絡が来るたびに怯えていたけれど、それは幹久には言わないでおこうと菜穂子は心に誓っている。




