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ネックレスに見惚れていた菜穂子だが、ガラス越しに通行人と目が合って、はっと我に返る。
傍から見たら、ナルシストに見えただろうか。そう思った途端、羞恥で頬が熱くなる。
「……見られてないよね?」
見ず知らずの通行人なら”ちょっと恥ずかしい”程度で済むけれど、これから会う二人にこの姿を目撃されたとなると、恥ずかしいを通り越して気絶したくなる。
なにせ、三軒隣のイタリアンレストランで待ち合わせしている二人は、真澄の大切な兄弟なのだから。
「──あ、なほ姉!こっちこっちぃー!」
待ち合わせのレストランに到着して、ウェイトレスに予約していることを告げる前に、聞き覚えのある元気な声がホールに響く。
声のする方に視線を向けると、満面の笑みを浮かべながら大きく手を振る瑞穂と、仏頂面の幹久が既に席についていた。
「ごめん、待たせちゃった」
今の時刻は、待ち合わせ時間の10分前。だから遅刻したわけじゃないけれど、本日は菜穂子が誘った側だ。しかも、ただの食事会ではなく、お礼を兼ねている。
そういった事情から、菜穂子は小走りに瑞穂たちの元に駆け寄った。
「なほ姉、走らんくっていいよぉー。うちが待ちきれんくって早く来ただけだし」
「そうですよ。こいつ、30分も前に着きやがって」
「いいじゃん、別に!」
席に着くなり兄弟喧嘩を始めようとした二人の前には、空になったグラスが置いてある。
どうやら幹久の言っていることは本当のようだ。嬉しくて、菜穂子の頬が無意識に緩んでしまう。
「っていうか、こいつが菜穂子さんの呼び出しに遅刻するわけないんだから、菜穂子さんももっと早く来てくださいよ。ったく、いつまで経っても読みが浅いですね」
「あははは……」
辛辣なことを言う幹久に、イラっとする気持ちがないと言えば嘘になる。しかし菜穂子は、笑って流すことにした。
なぜなら本当に菜穂子は、詰めが甘く、加えて幹久に大変お世話になったのだ。
「ギリギリの到着になってごめん。あと急な誘いだったのに来てくれてありがとう、幹久さん。今日は、ガッツリ食べてちょうだいね」
「当たり前じゃないですか。しっかり食べますよ。覚悟しといてください」
「うちも食べるから!そのために朝ごはん抜いてきたんだからっ」
横から割り込んできた瑞穂に、菜穂子は笑みを返す。
とはいえ十代の食欲ほど怖いものはないので、カバンの中の財布がカタカタ震えている。しかし菜穂子は、食事程度で済まないほど二人には助けられた。
8月に入ってすぐ、菜穂子が働くデザイン事務所は、ある大手企業からノベルティの盗作疑惑をかけられたのだ。




