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交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~  作者: 当麻月菜
絡まる想い

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8

「……え、江上……君……?」


 縋るような眼差しを航平に向けているように見える菜穂子だが、内心、彼の取った行動に「なんてことをしてくれるんだ!」と苛立つ気持ちが少なからずある。


 自分が招かれざる客を演じてさっさと退場すれば、この場は丸く収まったのに。


 所長には後でちょっと迷惑をかけるかもしれないが、日ごろから「土下座はタダだ」と豪語しているから、きっと上手に先方に謝ってくれるだろう。


 真澄個人に対しては、後で菜穂子が謝ればいい。怒らせるつもりはなかった。どうしても断れなかった。自らの意思で祝賀会に参加したわけじゃないと、必死に釈明すれば怒りを鎮めてくれるだろう。


 それでも怒るなら、仕事とプライベートは分けるって言ったじゃん!と逆切れすればいい。ん?……あれ??


 ここで菜穂子は、真澄が取った行動に違和感を覚えた。

 

 しかしそれを深く考える間もなく、航平が口を開く。


「早波さんが嫌がってるのに、あんた何やってるんですか?」

「早波?」


 あんた呼ばわりされたことより、菜穂子が旧姓で呼ばれたことに真澄は不快感をあらわにした。


 それをどう受け止めたのかわからないが、航平は眉を吊り上げる。


「うちの事務所の大切なスタッフなんで、乱暴なことしないでくれますか?」


 物怖じせず菜穂子を守ろうとする航平は、無駄にカッコイイ。


 しかし状況が状況だけに、菜穂子はときめくどころか、嫌な汗しか出てこない。


「江上君、ちょっと落ち着こ……ね?」

「は?」

「は?」

 

 火花を散らす真澄と航平をなだめようとしただけなのに、二人から睨まれてしまい、菜穂子は頭を抱えたくなる。


「菜穂ちゃん、来い」

「行く必要なんかないですよ、早波さん。俺と一緒にいましょう」

「は?お前、死にたいのか。菜穂ちゃんは俺の──」

「はい!行きましょう!!」


 妻だ、と言いそうな勢いだった真澄を止めるべく、菜穂子は真澄の腕を掴んで会場の外へと歩き出した。


 モーセが海を割ったように、菜穂子と真澄が歩き出すと招待客は無言で道を譲る。その中には、純玲と耀太もいた。

 

 純玲は世界中の憎悪を凝縮した視線を菜穂子に向け、耀太は「え?は?え??」と言いたげに、菜穂子と真澄を交互に見つめている。


 それらを横目で見ながら、菜穂子は足を止めずに真澄をチラッと見る。


「寒いけど、非常階段で話しできる?」

「……空いてる部屋があるからそこにしてくれ」


 部屋番号を告げる真澄に、菜穂子は小さく頷いて会場の外へ出た。


 エレベーターホールは閑散としていて、さっきまでのざわめきが嘘みたいだ。


 真澄の腕を離した菜穂子はエレベーターのボタンを押して、到着を待つ。


「……ところでさ、私がその部屋行っていいの?」

「何が訊きたいんだ?」


 質問を質問で返され、菜穂子は口をつぐむ。一応、気を遣ってあげたのに。


「別に行っていいなら、行くよ。一応確認したかっただけ」

「だから、なんの確認なんだ?」


 しつこく尋ねてくる真澄に、菜穂子はイラッとする。


「部屋に女性がいたら、困るんじゃないかって思っただけ!」


 こんなこと言いたくなかったのに、言わせたのは真澄の責任だ。全部、彼が悪い。


 そう居直った菜穂子だが、真澄の顔を見て唇をかむ。


 真澄は、酷く傷ついた顔をしていた。

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