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受付を済ませた菜穂子と航平は、並んで会場に入る。
いきなり主力商品のイメージキャラクターの等身大フィギュアに出迎えられ、度肝を抜かれてしまう。
なるほど、これがゲームやアプリ開発をしている会社の祝賀会なのか。
幾つも設置された大型モニターも、随分と値が張りそうだ。あとで、どんな映像が流れるのだろう。ちょっとワクワクしてしまう。
「……すっご」
「……すげぇ」
同時に呟き、お互いの顔を見合わせる。そして同じタイミングでぷっと噴き出した。
「さすが柊木グループだね。規模が大きすぎて、一周回ってなんか緊張がほぐれちゃった」
ふふっと菜穂子は笑いを零すが、航平は信じられないと言いたげに目を見開いた。
「え?柊木グループ?……まじっすか……。俺、そんなところと仕事してたんだ……」
愕然とする航平だが、取引先の規模を知らずに仕事をしていた彼に、菜穂子はもっと愕然する。
「だから江上君……担当さんに修正依頼受けても、ズバズバ言い返してたんだ……」
「そぉっす」
「私てっきり、それが江上君のキャラだと思ってた」
「……真顔で何言ってるんですか?なんかすげー傷つくんですけど」
航平からジト目で睨まれ、菜穂子は両手をパンッと合わせた。
「ごめん!江上君って、誤解を生みやすい性格なんだね。どう思ってたかは絶対口にできないけど、これからは思い込みで決めつけたりしないからっ」
「ここですぐ謝るのって、狡くないですか?」
「狡いのはわかってるけど、ここは年上の私に免じて許して!」
勢いで押し切ろうとした菜穂子に、航平は冷めた視線を送る。
「それ、エイハラ」
「えー……エイハラになるぅ?なるかぁー……ごめん」
「あははっ」
シュンと菜穂子が肩を落とした途端、航平は声を上げて笑った。
「いいですよ。許しますよ。今日の早波さんは綺麗なんで」
「お、ありがとう。じゃあ、仲直りしたし、美味しいもの食べよっか」
「……うわぁ、食い意地凄いっすね」
ドン引きした航平に少しだけ苛立った菜穂子だけれど、聞こえないふりをして歩き出す。
本当のところ、食欲なんてない。でも食べて飲んで、くだらない話でもしていないと気持ちが落ち着かないのだ。
なにせここは、柊木グループのホテル。去年の秋、このラウンジで真澄と打ち合わせした。その後、真澄にプロポーズされ、菜穂子は真澄を好きになってしまった。
始まりの場所と言っても過言ではないここは、菜穂子にとって感慨深い場所であり、どうしても真澄のことを考えてしまう困ったところでもある。
「何食べよっかなぁー、やっぱまずはお酒だよね。こういう時は、シャンパンから飲むのがマナーかな」
「まず、ウコンからじゃないですか?」
「確かに!」
菜穂子のくだらない独り言に、航平は律儀に返してくれる。このことを所長に伝えたら、きっと喜ぶだろう。稲富と渡辺が驚く顔も、目に浮かぶ。
そんなことを考えながら会場奥の立食スペースに移動していた菜穂子の足が、突然止まった。
「うわ、最悪……!」
場所も状況も忘れ、菜穂子は巨大な毛虫を目にしたような顔つきになってしまう。
なぜなら視界の先に、元カレ──五十嵐耀太がいたからだ。




