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瑞穂から聞いた話では、純玲は医者の娘で、政治家とか有名企業とも繋がりがある正統派令嬢だ。
真澄と純玲の婚約は美佐枝が一方的に進めたらしいが、今の話を聞く限り、柊木家が満場一致で望んでいることなのだろう。
確かに庶民の菜穂子と結婚するより、純玲と結婚する方が得るものはあるだろう。
しかし真澄が、そういった理由で結婚相手を選ぶわけがない。だって彼は、もう既に心に決めた人がいるのだから。
「……ああ。あんたの言う通り、俺は正解がわかっている。俺が妻にしたいのは、あんたじゃなく菜穂ちゃんだ」
「なっ……!」
悲鳴に近い声を上げた純玲に続いて、美佐江が「ちょっと、真澄さん!」と抗議の声を出す。
そんな中、廊下にたたずむ菜穂子は、片手で口を押さえながら、冷や汗を垂らす。
だって今の真澄の言葉は、キッチンにいるだろう智穂にも聞こえているはずだ。なんでわざわざ誤解を招く発言をするのだろう。
どうせ自分達は、近いうちに離婚する関係だ。もっと他に言いようがあったはずなのに──
「真澄さん、いい加減にしなさい!純玲さんを傷つけるなんて、失礼にも程があるわっ。今すぐ謝りなさい、さあ!」
「断る」
「断るって……真澄さん、それが許されると思ってるの?」
「ああ」
責める美佐枝に対して、真澄は徹底して謝罪を拒んでいる。その態度は、菜穂子が知っている真澄じゃなくて、少し怖い。
菜穂子が無意識にゴクリと唾を吞んだ瞬間、再び美佐江が口を開いた。怒りでも怯えでもなく、呆れ切った声音で。
「はぁー……やっぱり、こういう時に育ちがでるものね。芸者に産ませた子なんて、所詮、柊木の子ではなかったのよ」
「おばさま、そんなことをおっしゃらないでください。確かに真澄さんの生い立ちには傷がありますが、私はそんなこと気にしてません。それに私と結婚すれば、真澄さんも周りから認めてもらえると──」
──バンッ!!
聞くに堪えない美佐江と純玲の発言に、菜穂子の堪忍袋の緒が切れた。気づいたら、リビングに続く扉を豪快に開けていた。
「ただいま、まあ君」
唖然とする美佐江と純玲を無視して、真澄に声をかけた菜穂子は、次いで智穂を目で探す。
予想通り智穂はキッチンにいて、菜穂子と目が合うと、なぜかホッとした顔をする。てっきり「なぜ戻ってきた?」と責められると思ってたのに。
「それでは私は時間になりましたので、これで失礼します」
戸惑う菜穂子をよそに、智穂は礼儀正しく一礼するとエプロンを外す。
そして菜穂子に「後は任せた!」と言いたげな笑みを向けると、コートとカバンを持ってそそくさと玄関に向かってしまった。




