4
空になったコーヒーカップを真澄から回収すると、智穂は向かいのベッドに座って足を組む。
「真澄君さ、さっき今回の人生はこれまでと真逆のことばかりやってるって言ったよね?」
「ああ」
「それがさ、すごく大きな鍵になると思うの。だから話せる範囲でいいから、これまでとの違いを教えてくれる?」
「もちろんだ」
即座に頷いた真澄は、これまで取ってきた自分の行動と今回の人生で取った行動の違いを語りだした。
「一番大きな違いは、9歳の俺は菜穂ちゃんに会わなかった」
人生が巻き戻ると、真澄はいつも智穂の実家近くの橋の上にいる。画材道具を持って。そしてしばらくすると橋の下の河原にいる菜穂子は、真澄を見つけてくれるのだ。
しかし今回は、菜穂子に見つかる前に真澄は逃げ出した。その後、菜穂子に会わぬようずっと智穂の実家から一歩も外に出なかった。
「ふぅん……じゃあ菜穂子さんと会ったのは大人になってから?」
「ああ。菜穂ちゃんにプロポーズしたのが初対面だ」
「あの子、良くオッケーしたわね」
正気か?と言いたげな智穂に、真澄は「菜穂ちゃんさ、ちょうど交際相手の浮気現場を目撃したからね」と補足する。
「そっか……自暴自棄になってたんだ……」
今頃になって二人が結婚した経緯を知った智穂は、しみじみと呟く。目の前に真澄がいるというのに。
「実はこれも、これまでとは違うんだ。あの日、俺は菜穂ちゃんの彼氏が浮気するのを知ってた。だから菜穂ちゃんが目撃するよう時間を狙って打ち合わせの日時を指定した」
「鬼畜か?あなた」
「菜穂ちゃんからは感謝された」
すぐさま言い返す真澄に、智穂は微妙な顔をする。
「まぁ……菜穂子さんは、元彼と結婚しちゃったら死んじゃうんだよね?なら、良かったことにしよう……っていうか、今のところは私は聞かなかったことにする」
「お好きにどうぞ」
「で、他にやった違う行動は?」
「これは微妙なんだけど……俺さ、これまでは柊木グループの嫡男として企業に携わると殺されてたんだ」
サラリと告げた真澄の言葉に、智穂は青ざめた。
「殺されるって……そんな……」
血の気の引いた智穂を見て、真澄は笑う。
「そんな顔しないで、智穂さん。俺は今は生きてるし。あの頃は、まだ未熟だっただけさ」
「未熟って……戦国時代じゃあるまいし……」
「うちはそういうとこだろ?」
真澄の両親は、戸籍上では重矩と美佐枝となっているが、実は違う。
重矩の父──前会長の柊木益之助と妾の子だ。そして瑞穂は、重矩と愛人の間に生まれた子供である。
「俺を産んだ母親は、実子と認めない代わりに口止め料として多額の金銭を受け取って行方をくらませた。俺の実の父親は、俺を跡取り息子として育てるよう遺言を残したけど、そんなの残された奴らにとったら迷惑な話だったんだろうな」
他人事のように語る真澄だが、幼少期に酷い仕打ちを受けてきたのは、どの人生でも同じだ。
それでも真澄は、遺言通り柊木グループの跡取りとして認められようと努力したが、何度も事故に見せかけ殺された。
殺害され、また9歳の自分に戻ることに疲れて、柊木グループから距離を置き一般企業として働いたこともある。
ただ今回の人生は、これまでの失敗を活かしたのと、運が味方してくれたのもあり、真澄は柊木グループの御曹司としての地位を固めることができたのだ。




