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「ところで智穂さん、なんか収穫あった?」
ネガティブな気持ちを無理矢理押さえ込んだ真澄は、智穂に視線を向けた。
これほど書類の束を持ち帰ってきてくれたのだからと、多少の期待を込めて智穂の返事を待つ。
しかし、返ってきたのは望まぬものだった。
「ごめん……結論から言うと収穫は無し。強いて言うなら、うちの実家周辺の地域による影響?呪い?そういうのじゃないってことは間違いない。これが収穫かな」
「……そっか」
気落ちする真澄に、智穂は「コーヒー飲む?」と尋ねる。
よほど落ち込んでいるのか、真澄はベッドに倒れこんだまま微動だにしなかったが、しばらくして「飲む」と小声で言った。
「真澄君はさ、最初の人生って智穂ちゃんとどんな夏休みを過ごしてたの?」
そう言いながら智穂は、淹れたてのコーヒーを飲めと真澄に押し付ける。
「どんなって……別に普通だよ。絵をかいたり、虫取ったり、河原で石を選んだり……なんでそんなこと訊くんだ?智穂さん」
「んー?そこにヒントがあるって思ってるから」
唇に手を当てながら、智穂は自分の推測を語りだす。
「真澄君が何度も人生を繰り返すのって、一番最初に《《何か》》をしたのが原因だと私は確信している」
「ああ、それは俺も同感だ」
「で、その《《何か》》なんだけど……真澄君は何度も人生を繰り返してるけれど、気づいていないんじゃない?」
「いや、気づいている。俺は、菜穂ちゃんとの約束を守るために、人生を繰り返している」
夕日に染まった境内で、菜穂子と真澄は結婚の約束をした。
誰もいない神社は葉擦れの音だけが響いて、菜穂子の声はとても鮮明だった。聞き間違うことなど絶対にない。
「大人になったら結婚しようって。そう菜穂ちゃんは言ってくれたんだ。その約束を守るために……守りたいから、俺はずっと同じ人生を繰り返してるはずなんだ」
そうじゃなきゃ、こんな滅茶苦茶な人生耐えられない。
そんな真澄の悲痛な気持ちを感じ取った智穂は、真澄の頭をぺちんっと叩く。
「あーもぉーイライラする!ウジウジしない!大の大人がショゲるな。まだ悪いことなんて何も起こってないんだから」
「智穂さん、痛い。手加減してくれよ……」
「わざと痛くしたの!ったく、私がこうして色々調べてるのに。とりあえず土地の影響はないってことなら、あとは真澄君と菜穂子さんが最初の人生で《《何か》》をしたってことでしょ?それがわかっただけでも進歩じゃん」
「まぁ……確かに」
ちょっとだけ気持ちが浮上した真澄に、智穂はコーヒーカップを指さす。
「とりあえずコーヒー飲みな。冷めちゃうよ」
「……はい」
「全部飲み終わったら、まだ訊きたいことがあるから」
「わかった」
素直にうなずいた真澄は、ゆっくりと時間をかけて智穂が入れてくれたコーヒーを飲み干した。




