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食事を終えた智穂は、カバンから書類を取り出した。新聞や書籍のコピーまで含まれており、その量は両手で抱えるほどだ。
「随分調べてくれたんだな」
「当ったり前よ!これ、真澄君へのクリスマスプレゼントとお年玉も兼ねてるからね」
保護者の顔を見せる智穂に、真澄は尊敬のまなざしを送る。
「なら俺も、智穂さんにクリスマスプレゼント贈らないと……何がいい?」
「私はいいわよー。それより菜穂子さんに、ちゃんとプレゼントした?」
「ああ。ストール贈った」
「へぇー、なんかチョイスが普通……」
てっきり引くほど高価なものを贈ったと思っていた智穂は、落胆の表情を見せる。
「仕方がないだろ。実用的なものじゃないと菜穂ちゃん受け取ってくれないんだから」
何度も人生を繰り返す真澄は、それなりに菜穂子に対する知恵がついた。何が好みで、どうやったら受け取ってくれるのか。
かつて金に物を言わせて菜穂子を口説いた自分は、完全なる黒歴史だ。思い出すだけで死にたくなる。
「ふぅーん、苦労してるんだねぇ……真澄君は。二人っきりでいるのに限界がきて、逃げ出すぐらいに」
「うっ……!」
ここは咄嗟に否定しないといけなかったが、真澄は言葉に詰まってしまった。
そうなのだ。菜穂子に仕事と嘘をついて、実家にいる智穂を無理矢理戻らせたのは、これ以上理性を保つ自信がなかったからだ。
「……菜穂ちゃんさ、俺と結婚して良かったって言ってくれたんだよ……」
口元に手を当てながら呟く真澄は、歴史を揺るがす事件があったかのような口調だ。
一方智穂といえば、憐みの表情になる。
「それは良かったね。でも、水を差すようで悪いけど、それって恋愛感情から言ってるわけじゃないような気がするんだよね、私……」
「ああ、そうだ。別れた男に対して未練を持たずにいれた感謝の気持ちだ」
「そっか。感謝かぁ……」
「何度も口説いて振られた俺が、菜穂ちゃんの恩人になれたんだぞ?すごい快挙だ。でもなぁ……」
自画自賛していた真澄だが、急に表情を曇らせた。
「俺さ、今回の人生って、これまでと真逆のことばかりやってるんだ。そのおかげで菜穂ちゃんと結婚できたのかもしれない。でも、本当にこれで合ってるのかわからないんだ」
そこまで言って、真澄は部屋のベッドにどさりと座る。
「俺の知らないトリガーがまだあって、それを知らず知らずのうちに引いてて、ふっと気づいたら、また9歳の自分に戻ってるかもしれない。それが……すごく怖いんだ……」
夜寝て、目が覚めたら、この生活が終わっているかもしれない。そんな不安を抱えて、真澄はもうずっとロクに寝ていない。
慢性的な寝不足は、判断力を鈍らせる。今日だって思い返せば、菜穂子に不必要に触れていた。あのまま一緒にマンションに戻ったら、手を出さない自信はなかった。
過去、何度も人生を繰り返すことに疲れた真澄は、浴びるほど酒を飲んで異性を抱いてしまったことがある。
酷い後悔に襲われ、抱いた女性から背を向けた瞬間、真澄は9歳の自分に戻っていた。
あれ以来、真澄は酒を一滴も口にしていない。




