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交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~  作者: 当麻月菜
潮風に隠す嘘と本音

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6

「菜穂ちゃん、こっちおいで」


 真澄に手招きされ、菜穂はトコトコとそこまで行く。


 すぐに真澄は、菜穂子の首に中途半端に巻いてあったストールを引き抜いた。


「ちゃんと巻かないと風邪ひくぞ」


 そう言いながらストールを巻き直す真澄の手つきは、ちょっとだけぎこちない。


「まあ君にも苦手なことがあったんだ」

「いじるな。こういうの、慣れてないんだ」

「……ふぅーん」


 嘘つき。という言葉を吞みこんで、菜穂子は海を見る。


「少し歩いてもいいか?」

「もちろん。あ、でも……まあ君は寒くないの?」


 菜穂子はダウンのロングコートを着ているが、真澄はスーツ姿だ。コートを着ていない。


「平気だ。寒くない。それよりも、早く行こう」

「う、うん……」


 真澄が寒くないというなら、寒くないのだろう。もし途中で寒くなったら、自分のストールを貸せばいい。


 そう結論を下した菜穂子は、真澄と肩を並べて歩き出した。


 誰もいない砂浜に、二人の足跡が描かれていく。


 ザァーザァーと繰り返す波の音と、微かに聞こえる車の行き交う音を聞きながら、菜穂子と真澄は、ゆっくりと歩く。


 時折、「雲の流れが速いね」とか「鳥がいるねー」とか見たままを菜穂子が口にすると、真澄は「ああ」とか「そうだな」と相槌を打つ。


 ついさっきまで、殺伐とした新年の宴に参加していたなんて嘘みたいに穏やかだ。


「まあ君、寒くはない?」

「菜穂ちゃんは?」

「私は平気。っていうか、歩いてたら暖まってきた」


 笑って答えたら、真澄は安堵の笑みを浮かべる。まるで、この時間を続けられることを喜んでいるかのように。 


「とはいえ、手は冷たいな」

「そっか。なら、そろそろ──」

「そうだな。手を繋ごう」

「え?」


 なんで、そういう流れになるのかわからない。でも真澄は、「んっ」と言って菜穂子に手を差し出す。なんだよ、「ん」って!


「私の手も冷たいよ?」

「なら余計手を繋いだほうがいい」

「でも……あっ……!」


 躊躇う菜穂子の手を、真澄は奪うように繋いだ。


 一瞬、ヒヤッとなるが、じわじわと真澄の熱が手のひらに伝わってくる。


「……あったかい」 

「だろ?」


 軽く眉を上げた真澄は、手を繋いだまま歩き出す。


 冬の日暮れは早い。夕刻にはまだ早いけれど、陽は既に沈みかけている。夕日が水面に反射して、とても幻想的だ。


 繋いだ手から、温もりが波紋のように全身に広がった菜穂子は、心も解れていく。今なら、言えなかったことも言える気がする。

 

「まあ君、私と結婚してくれてありがとね」


 菜穂子が言い終えたと同時に、真澄の足がピタリと止まった。 

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