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「菜穂ちゃん、こっちおいで」
真澄に手招きされ、菜穂はトコトコとそこまで行く。
すぐに真澄は、菜穂子の首に中途半端に巻いてあったストールを引き抜いた。
「ちゃんと巻かないと風邪ひくぞ」
そう言いながらストールを巻き直す真澄の手つきは、ちょっとだけぎこちない。
「まあ君にも苦手なことがあったんだ」
「いじるな。こういうの、慣れてないんだ」
「……ふぅーん」
嘘つき。という言葉を吞みこんで、菜穂子は海を見る。
「少し歩いてもいいか?」
「もちろん。あ、でも……まあ君は寒くないの?」
菜穂子はダウンのロングコートを着ているが、真澄はスーツ姿だ。コートを着ていない。
「平気だ。寒くない。それよりも、早く行こう」
「う、うん……」
真澄が寒くないというなら、寒くないのだろう。もし途中で寒くなったら、自分のストールを貸せばいい。
そう結論を下した菜穂子は、真澄と肩を並べて歩き出した。
誰もいない砂浜に、二人の足跡が描かれていく。
ザァーザァーと繰り返す波の音と、微かに聞こえる車の行き交う音を聞きながら、菜穂子と真澄は、ゆっくりと歩く。
時折、「雲の流れが速いね」とか「鳥がいるねー」とか見たままを菜穂子が口にすると、真澄は「ああ」とか「そうだな」と相槌を打つ。
ついさっきまで、殺伐とした新年の宴に参加していたなんて嘘みたいに穏やかだ。
「まあ君、寒くはない?」
「菜穂ちゃんは?」
「私は平気。っていうか、歩いてたら暖まってきた」
笑って答えたら、真澄は安堵の笑みを浮かべる。まるで、この時間を続けられることを喜んでいるかのように。
「とはいえ、手は冷たいな」
「そっか。なら、そろそろ──」
「そうだな。手を繋ごう」
「え?」
なんで、そういう流れになるのかわからない。でも真澄は、「んっ」と言って菜穂子に手を差し出す。なんだよ、「ん」って!
「私の手も冷たいよ?」
「なら余計手を繋いだほうがいい」
「でも……あっ……!」
躊躇う菜穂子の手を、真澄は奪うように繋いだ。
一瞬、ヒヤッとなるが、じわじわと真澄の熱が手のひらに伝わってくる。
「……あったかい」
「だろ?」
軽く眉を上げた真澄は、手を繋いだまま歩き出す。
冬の日暮れは早い。夕刻にはまだ早いけれど、陽は既に沈みかけている。夕日が水面に反射して、とても幻想的だ。
繋いだ手から、温もりが波紋のように全身に広がった菜穂子は、心も解れていく。今なら、言えなかったことも言える気がする。
「まあ君、私と結婚してくれてありがとね」
菜穂子が言い終えたと同時に、真澄の足がピタリと止まった。




