4
「一旦外に出よう」
安堵したのもつかの間、真澄は伝票をもって立ち上がる。
どうやら周囲の視線が気になるらしい。
「……ごめんなさい。私が変な質問したせいで……」
「謝らなくていいけど、次からはそういう質問はしないでくれ」
「うん。ちゃんと場所を考えてから発言する」
「そうじゃない。菜穂ちゃんから、《《そういう質問》》をされるのが嫌なんだ」
「?……うん。わかった」
頷きながら、菜穂子は「そういう質問とは、どういう質問なんだろう」と疑問に思う。でも真澄に尋ねても、答えてくれないような気がする。
元旦から営業しているカフェは少ないのか、店内は混雑している。当然、レジ前にも列ができてる。
入店する人と、会計を終えて帰る人が絶えず行き来しているので、ドアは開いたまま。入口前にあるレジ付近の室温は、外気温と変わりがない。
「菜穂ちゃん、寒いから先に車に行ってて」
ストールを巻きなおしている菜穂子に、真澄は車のキーを渡す。
「いいよ。待ってるよ」
「いいから。ちゃんとヒーター入れて、温まってるんだぞ」
「……はーい」
強引に車のキーを押し付けられ、菜穂子はしぶしぶ受け取る。
普通に渡されたけれど、真澄の愛車は高級車だ。元カレの耀太は大の車好きで、中古の大衆車といえど、他人に触らせることを極端に嫌っていた。無論、菜穂子にも。
そんな過去があるせいで、菜穂子は躊躇っているのだが、真澄は「早く行け」と目で訴えてくる。
混んでいるとはいえ、会計を終える時間なんてたかが知れているのに。この程度の寒さで、体調を崩すほどヤワな体じゃないのに。
「……大事にされすぎでしょ?私」
思わず口にした言葉は、真澄の耳には届かなかったけれど、菜穂子の心には小さな欠片となって残ってしまった。
*
会計を終えた真澄は、菜穂子に行く先を告げずに車を走らせる。
ハンドルを握る真澄の横顔は硬い。純玲の話を、どう切り出そうか悩んでいるのかもしれない。
「純玲さんと、まあ君ってさ、いわゆる親同士が決めた許嫁って感じなの?」
「っ……!み、瑞穂が……そう言ったのか?」
取り乱してこちらを向こうとする真澄に、前を向けと菜穂子は指をさす。
「違うよ。瑞穂ちゃんは何も言ってない。私が勝手にそうなのかな?って思っただけ。で、正解?不正解?」
「……正解だ」
「うわぁ、お坊ちゃま!今時、あるんだ。そういうヤツ」
「食いつくところは、そこかよ」
苦い顔になる真澄には申し訳ないが、本当にそれが一番の感想だ。
「菜穂ちゃんは、さ」
「うん?」
「軽蔑したりしないのか?婚約者がいたのを隠してプロポーズした俺のこと」
「まさか。しないよ!」
そんな質問をする方が、よっぽどイラっとする。
「まあ君は智穂さんのことが好きで、純玲さんとは結婚したくなかったんでしょ?純玲さんと結婚しちゃったら、家のことは純玲さんがやるから智穂さんは、まあ君の家政婦ではいられなくなる。だから智穂さんを引き留めるために、私と結婚した。そういうことでしょ?」
「……まぁ、ああ……」
歯切れ悪く頷く真澄は、多分、明け透けに自分の計画を語られて恥ずかしいのだろう。
「なんかさ、私……デリカシーに欠ける発言をしたかも。ごめん」
謝っても、真澄は何も言わない。チラッと盗み見たら、真澄は更に苦い顔になっていた。




