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「……悪かったな。色々と……」
瑞穂が去ってしばらくしてから、真澄はポツリと言った。
「ん?別に、悪くされた覚えはないですよ?」
むしろ、こっちが迷惑をかけてしまった。
でもそれを口にしたら、真澄は「そうじゃない。俺が悪い」と言い出すだろう。2か月近く同じ屋根の下で暮らしているのだから、それぐらいはわかる。
だから菜穂子は、終わりの見えない会話を続けるより、話題を変えることを選んだ。
「瑞穂ちゃん、可愛いねぇー。私、お兄ちゃんしかいなかったから、すごく新鮮だった。あ、瑞穂ちゃんに”いつでも遊びにおいで”って言っちゃったけど……」
「構わない。あいつも逃げ場があるほうがいいだろう」
「そっか……そうだよね……」
真澄のその言い方が、なんとなく引っ掛かった。
皆がワイワイとご馳走を食べている中、瑞穂が一人厨房でカップラーメンを食べていたことを知っても、真澄のリアクションは薄かった。興味がないというより、それが日常と言った感じだ。
でも真澄と瑞穂の仲は、小遣いを強請り、与える関係だ。遊びに出かけた瑞穂の身を案じていたから、悪くないどころか、良好と呼べるだろう。
そこにすごく矛盾を感じるけれど、菜穂子は詳細を尋ねるつもりはない。
智穂は「真澄さんはね、色々あって幼い頃に私の実家で過ごしたことがある」と言っていた。その色々の中に、きっと瑞穂との関係も含まれているのだろう。
そしてそれは、柊木家の闇の部分だ。期間限定で結婚した菜穂子が、安易に触れていいものではない。
「菜穂ちゃん、この際だから言っておきたいことがある」
急に口調と態度を改めた真澄に、菜穂子は小さく息をのむ。
「あ、う……ん。何……かな?」
「瑞穂が言っていた純玲のことだ」
頭の中で瑞穂のことを考えていたので、てっきりその話だろうと思い込んでいた。
しかし予想が外れ、菜穂子は動揺してしまう。
「え?す、純玲……さんの、こと?」
「そうだ」
「あー……そっちは、なんとなく察しはついてるから、言わなくてもいいよ?」
「そういうわけにはいかない。菜穂ちゃんは俺の妻なんだから」
妙に”妻”というワードを強調する真澄に、菜穂子は心の中で色々考えてしまう。いいことも、悪いことも。
「まぁ君、あのさ……」
「なんだ?」
「実は本命は智穂さんじゃなく、純玲さんってことは──」
「あるわけないだろ!」
真澄は、怒鳴り声で否定する。すぐさま周囲の視線を感じて、ちょっと居心地が悪い。
でも菜穂子は、一番悪いことが避けられたことにホッとしてしまった。




