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──ピコロン!ポコポコ。
テーブルに置いてある瑞穂のスマホが、突然鳴った。二度聞きしたくなるような、個性的な着信音である。
「あ、ごめん。ツレから誘われたから、うち行くね」
スイスイとスマホを操作しながらそう言った瑞穂に、真澄は怪訝な顔になる。
「元旦から誘うなんて……誰だ?」
「ん?クラスの子。この近くでカラオケしてるから、おいでって」
「異性もいるのか?」
「異性って……あはっ、すみ兄おやじかっ。そんなわけないじゃん。うち女子校だよ?女の子しかおらんし」
「なら余計に──」
「もうっ、大丈夫だから!うちの学校にやんちゃする子なんていないこと知ってるでしょ?それよりもさ」
ここで会話を区切った瑞穂は、真澄に両手を出した。
「すみ兄ぃー、コート着忘れちゃったから寒い!あと財布もないから、お小遣いちょーだい」
今日一番の笑顔を向ける瑞穂に、真澄はあからさまに溜息を吐く。
「幾らだ?」
「ん?ええっとー、あるだけ!」
「ふざけるな」
そう言いながらも真澄は上着の内ポケットから財布を取り出し、数枚の札をテーブルに置く。
続くように菜穂子も、お年玉として財布から札を抜いて、真澄の置いた札に重ねた。
二人合わせた金額は、瑞穂の予想を上回るものだったのだろう。喜びと戸惑いの表情が入り混じっている。
「……こんなに、いいの?」
「帰りのタクシー代も入ってるからな」
「うん!」
「タクシーがつかまらないなら、山南を呼ぶんだぞ」
「うん!」
セレブ要素を含んでいるとはいえ、なんだかんだ言って妹想いなんだなと、菜穂子は二人の会話を微笑ましい気持ちで眺めている。
「なほ姉も、ありがとう!」
満面の笑顔を向けられ、菜穂子は照れてしまう。期間限定とはいえ、妹っていいな。大事にしたい。
「楽しんできてね」
「うん!やっぱ、なほ姉のこと好きだな。純玲さんとは大違い。あの人さ──」
「おい」
真澄の低い声で、瑞穂は自分の失言に気づいた。
「……ごめんなさい」
しゅんとしてしまった瑞穂に、菜穂子は笑みを向ける。
「大丈夫、気にしないで。それよりも、待ち合わせ場所は近い?先にコート買う?まぁ君に近くまで送ってもらおっか?」
矢継ぎ早に問いかけられた瑞穂は、首をフルフル振る。
「ううん、いい。歩いてすぐだし、コートはクラスの子と一緒に選びたい」
「そっか。じゃあ急がないと遊ぶ時間減っちゃうよ?」
菜穂子から助け船を出された瑞穂は、ギュッと隣に座る菜穂子に抱きついた。
「なほ姉、ありがと!大好き!……ねぇ、また連絡してもいーい?」
最後は小声で尋ねる瑞穂に、菜穂子は大きく頷く。
カフェに入ってすぐ、真澄が席を外した隙に菜穂子と瑞穂は、連絡先を交換している。
「それじゃ、うち行くね!すみ兄、さっきは本当にごめん」
「わかった、わかった。そのことはもういいから、気を付けて行ってこい。あまり遅くなるなよ」
「はーい!」
元気よく返事をした瑞穂は、振り返ることなくカフェを後にした。




