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「真澄君、あなた菜穂子さんになんて言って結婚した?」
正座した途端、智穂にそう尋ねられた真澄は、すすっと視線を逸らす。
「こら」
「……言えない」
「そう。じゃあ質問を変えるわ。結婚しよう、ただし一年後には離婚しよう。真澄君は菜穂子さんにそう言って結婚しましたか?」
「っ……!な、なんで……知ってるんだっ」
狼狽える真澄に、智穂は馬鹿な子を見る目つきになる。
「そんなの一つしかないでしょ?」
「菜穂ちゃん……余計なことを……」
「責任転嫁しない!!」
「はい!」
腰に手を当てた智穂から怒鳴りつけられて、真澄は背筋をピンッと伸ばす。
今の智穂と真澄は、家政婦と家主ではない。保護者と子供である。
「私さぁ、菜穂子さんから”二人の関係を知っている”って言われたときね、真澄君が何度も人生を繰り返しているのと、そっち系に関して見えちゃう私の特技を知ってるって勘違いしちゃったじゃない。お陰で更にややこしい状態になったわ。この馬鹿!で、真澄君は菜穂子さんに、どうして離婚前提の結婚を持ち掛けたの?」
怒涛の勢いでまくし立てられた挙句、最後に一番答えずらいことを問われた真澄は、無駄だとわかっていても、また視線を逸らす。
「……あり得ないことを言うけど、まさか私のことが好き……とか言ってないよね?」
「智穂さん、すごい。千里眼だ」
賞賛した真澄の言動は、火に油を注ぐ行為でしかない。
「こぉんのぉーーー馬鹿!!なんでそんな鳥肌が立つような嘘を言うの!!」
「だって!」
「だってぇー?は?だってぇーーー、なぁーーーん、ですかぁーーーー?ま、す、み、くぅーーん?」
ギロリと智穂から睨まれた真澄は、竦みあがる。それでも質問には答える。だって、無言のままでいる方が怖いから。
「だって菜穂ちゃんを死なせたくなかったから……でもOKしてもらえる雰囲気じゃなかったから、咄嗟に一年だけって付け加えたんだ。それならワンチャン結婚してもらえるかもと……」
真澄の知っている未来では、菜穂子は耀太と別れずに結婚する。
しかし夫となった耀太は、浮気を繰り返し、借金をつくり、それを咎めた菜穂子は、ありとあらゆるハラスメントを受けた。
身も心もボロボロになってしまった菜穂子を見て、早波一家はもちろん黙っていなかった。法を犯さないギリギリの報復行為をして、耀太がカスカスになるまで慰謝料を搾り取って離婚させた。
でも心身ともに傷ついた菜穂子は、家族や医者がどんなに手を尽くしても、結局は27歳で命を落としてしまった。
「ねぇ……真澄君」
「なんですか?智穂さん」
上目づかいで続きを促した真澄に、智穂は大仰に溜息を吐いた。
「あなた、どうして菜穂子さんのこととなると、こんなにポンコツになるの?」
容姿端麗、頭脳明晰。何をさせても完璧にこなす──これが世間一般の柊木真澄の評価だ。
現在、床に正座して項垂れている男と、同一人物だとは思えない。
「ごめん、智穂さん。俺もなんでなのかわからない」
さらに項垂れる真澄を見て、智穂は救いようのない馬鹿を見る目になった。




