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交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~  作者: 当麻月菜
だから菜穂子は、御曹司と結婚した

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 運転手付きの高級外車で連れてこられたのは、柊木財閥が経営している高級ホテル。


 そこのプライベートラウンジで、菜穂子と真澄は打ち合わせをしている。


 窓ガラスに映るのは、耀太の100倍高級そうなスーツを着た真澄と、胸まである髪をハーフアップにした菜穂子。


 大財閥の御曹司と一緒に、コーヒーを飲んでいる。

 極上のイケメンが、自分が作った書類を見ている。


 どちらも夢みたいな光景だし、菜穂子の人生では有り得ない状況だ。来世でも無理だろう。


 でもこれは現実だ。その証拠に、心臓はバクバクしているし、膝の上で揃えている両手は汗でベチョベチョだ。


「なるほど、タイマー機能付きのアクスタか。これは面白そうだな」


 ペラリと、企画書をめくった真澄に、菜穂子はずいっと前のめりになる。


「はい、ありがとうございます!そうなんです”ヴァーミリアン・デューク”は自宅でも作れるリアルな料理レシピが話題になっていて、主婦の方にも人気ですし、このアプリゲームの影響で料理男子が増えたってネットニュースにもなっていたので、これならノベルティにピッタリだと思いました!」


 目を輝かせて補足する菜穂子に、真澄は満足そうに頷く。


「我が社のゲームをしっかりリサーチしてくれたようで感謝する。実は来月から、あるフレンチレストランとコラボしたレシピを出す予定だったので、ちょうどいい。これでいこう」

「ほんとですか!?」


 ぱあああっと、菜穂子の顔が輝く。実は、このタイマー付きのアクスタは、菜穂子が出したアイデアなのだ。


 大学は文学部。イラストやデザインを専門的に学んでこなかった菜穂子は、これまで雑用ばかりだったが、やっと事務所の役に立てた。


「では、正式にご契約ということで……」

「ああ。締結させてもらおう」


 菜穂子がおずおずと契約書を差し出すと、真澄はあっさりとジャケットの懐から万年筆を取り出し、サインした。


 ぅおっし!と、テーブルの下で、菜穂子はガッツポーズをする。


「電子版の契約書は、来週中に送ってくれ」

「明日、送らせていただきます」


 署名入りの契約書をそそっと手元に引き寄せながら菜穂子が答えれば、真澄はクスリと笑う。


 そういう顔をされると、イケメンに拍車がかかって、ちょっと居心地が悪い。


「で、では、あの……本日はありがとうございました」

「こちらこそ。だが、悪かったな」

「え……?」


 謝られることは何もないが、と首を傾げる菜穂子に、真澄はそっと目を逸らす。


「何か、あったんだろ?」

 ──打ち合わせより、大事なことが。


 言葉にこそしなかったが、真澄が何を言いたいのか察した菜穂子は、サッと血の気が引いた。


「も、申し訳ありません。あの時は、ちょっと自分を見失ってて……その……」

「いや、責めるつもりで言ったわけじゃない。ただ謝りたかっただけなんだ」


 きっぱり言ってくれて安心したが、真澄から謝られる筋合いはない。


 悪いのは、就業時間中だというのに浮気をこいていた恋人の耀太である。


「いいんです。ほんと、気にしないでください。ただちょっと、彼氏の浮気現場を目撃しちゃって、問い詰めようとしただけで……」


 口にして、菜穂子は後悔する。こんなプライベートな話を聞かさせても、真澄を困らせるだけだった。


「失礼しました。今の話、忘れてください」

「それは難しいな」

「そこをなんとか」

「はははっ」


 懇願する菜穂子を笑った真澄の目は、これっぽっちも笑ってなかった。


 気を悪くして契約破棄されたら、どうしよう。


 社運を賭けたこの取引、失敗したらデザイン事務所の未来はない。


 大学時代になんとなくバイトに応募して、なんとなくそのまま就職してしまった菜穂子だけれど、それなりにあそこには愛着はある。

 

 最悪な結末を想像する菜穂子に気づいたのか、真澄はまた笑った。今度は苦笑だった。


「契約は、契約だ。そこに私情は挟まないから、安心してくれ。ただ」


 変なところで言葉を止めた真澄は、含みのある表情に変わる。


「ただ……なんでしょう?」

「それは帰りの道すがら話そう」


 そっか。事務所まで送ってくれるんだ。


 さすが大財閥の御曹司、なんて紳士なんだろう。そんなふうに真澄の育ちの良さに、菜穂子は感服する。


 しかし車に乗り込んだ瞬間、そうじゃなかった!と、菜穂子はお気楽に考えていた自分を恨むことになる。

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