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交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~  作者: 当麻月菜
三角関係にもならない新婚生活

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12/54

5

 車に乗り込んだ菜穂子は、シートに深く身体を埋める。


「……なんか、思ってたのと違ってた……」

「既に結婚届は提出済みなんだから反対されても困るだけだろ?」

「それはそうなんですけど……」


 なんか喜べない、と渋面になる菜穂子に、隣に座る真澄は呆れ顔になる。


「なんだ?俺が君の父親に一発殴られるのを期待してたか?」


 頬杖を付いてクスリと笑った真澄は、からかっているだけなのかもしれない。


 でも菜穂子は、ムッとしてしまう。誰がイケメンの殴られる姿を見たいというのか。


「そんなこと期待するわけないじゃないですか!柊木社長、私のことどんな風に──」

「真澄だ」

「え……?」

「これからもずっと俺のことを柊木社長と呼ぶ気か?」

「……駄目ですか?」

「駄目に決まってる」


 秒で却下され、菜穂子は「えー……」と、困り顔になる。


「なんか名前で呼ぶより、柊木社長って呼ぶ方がしっくりくるんですけどぉ……」

「なら君も社長にしてやろうか?そうすれば君も、そう呼ばれることがおかしいことに気づくはずだ」

「なっ……!」


 サラリと言った真澄の規格外の提案に、菜穂子は思わず身を引く。

 

「じゃあ!先に私のこと名前で呼んでくださいよ。柊木社長だって、私のこと”君”とか”お前”って呼んでるじゃないですかっ」


 子供みたいな言い分だが、ごもっともな指摘に真澄は「うっ」と声をつまらせる。


「ほらっ、言えないじゃないですかぁー」


 昨日から、なんだかんだいって真澄のペースに吞まれていた菜穂子は、必要以上に、にんまりと笑ってしまう。


「結婚したならこうしなきゃいけないとか、こうするべきとか……色々ありますけど、そもそも私たちって、まともな結婚じゃないんですよ?だから別に、無理して型にはめようとしなくたっていいと思うんですよね。そう思いません?」


 菜穂子なりにまともな意見を口にしたつもりだったが、真澄は頷かない。


「もしかして柊木社長……名前で呼んで欲しいんですか?」

「そういうこと、はっきり口にするか?」

 

 拗ね顔になった真澄は、大財閥の御曹司感は消えて、ただの青年みたいだ。なんだか散歩をお預けされた大型犬みたいで可愛い。


「もぉー、しょうがないですね。真澄さん。それとも、まぁ君のほうがいいですか?」

「っ……!」


 クスクス笑いながら菜穂子がそう言った途端、真澄は小さく息を吞んだ。


「あ、ごめんなさい。ちょっと調子こき過ぎでしたね。やっぱ名前は……っ!」


 両手を胸の前で振って発言を取り消そうとした菜穂子の手を、真澄はギュッと強く掴んだ。


「いい」

「え?」

「今ので、いい」


 吐息が触れるほど真澄に顔を近づけられ、菜穂子は不覚にもドキッとしてしまう。


「……いいん、ですか?」

「ああ」

「じゃあ……まぁ、君」

「なんだい?菜穂ちゃん」


 菜穂ちゃんなんて呼ばれるの、小学生ぶりだ。スチール缶を片手で握り潰せる今の菜穂子には、ちょっと可愛すぎる。


 でも、嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして笑う真澄を見て、菜穂子はすんなり受け入れた。


「まぁ君、これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく。菜穂ちゃん」


 契約結婚なのに、一年後には離婚するのに。


 甘酸っぱい雰囲気に飲まれて、菜穂子はモジモジしてしまう。


 でも、この数時間後──菜穂子は真澄の25歳年上の清楚で美人な片想い相手と対面することになる。

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