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崩れゆく天国の影  作者: 霧崎 蒼司


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第9話

メインは剣を振るい続けた。

風を裂くような斬撃が、次々と相手へ襲いかかる。


――だが、そのすべてが、謎の少女によって容易く弾き返される。


気を運ばない剣は、ただの重さに過ぎない。

それは、防御を貫くにはあまりにも脆弱だった。


メインは歯を食いしばり、何度も、何度も試みる。

意志を振り絞り、エネルギーを無理やり技へと押し込もうとする。

だが――結果は同じだった。


一方で、少女は違う。

彼女が触れているのは、まだ基礎段階の“運気”に過ぎない。

それでも、その斬撃は鋭く、重く、明確な殺意を宿していた。


空気を切り裂く刃が降り注ぎ、

メインは防戦一方に追い込まれる。


一撃を躱しても、次の一撃が来る。

刃は装甲を削り、やがて腕の皮膚までも裂いた。

赤い血が走り、骨まで染みるような痛みが襲う。


――それでも。


メインは歯を噛み締め、倒れず、剣を握り直した。


時間が経つにつれ、少女の斬撃はさらに正確になっていく。

間断なく、息をつく暇すら与えない。


足取りは次第に乱れ、後退を強いられる。

追撃は、もはや“戦い”ではなく、

死へ誘う舞踏と化していた。


メインは避けることしかできず、

少女は容赦なく距離を詰め、刃を振るう。


その時――

崩れかけた街に、夕陽が差し込んだ。


黄金色の光が瓦礫を染め上げるのと同時に、

遠方から、仲間たちが戦っていた建物の崩壊音が轟く。


ドン、と胸が締めつけられる。


――時間が、ない。


メインは目を閉じた。

残された力のすべてを集中させる。


体内のエネルギーが変質し、収束し、

やがて刃のように鋭く研ぎ澄まされていく。


それは筋肉へ、血管へと染み込み、

最後に――剣へと流れ込んだ。


淡い光が、刃先に灯る。


――できた。

ほんの、わずかだが。


目を見開いた瞬間、

メインの視線は燃え上がるように輝いた。


「うおおおおおっ!!」


叫びと共に踏み込み、

連続した斬撃を叩き込む。


予想外の速度に、少女は一瞬たじろぎ、後退した。

追い詰められ、下がり続け――

気づいた時には、背後は壁。


メインはその隙を逃さない。

全力を込めた一撃を、真正面から叩きつけた。


だが――

少女の反応は、あまりにも速かった。


身体を捻ってかわし、反転。

放たれたのは、致命の一太刀。


生死の刹那、

メインは剣を引き戻し、即席の防御姿勢を取る。


――ガキィン!


金属が衝突し、火花が散る。

剣と剣が絡み合い、突き、斬り合う、凄絶な鍔迫り合い。


メインの目は血走り、

汗と血が混じり、口元から滴り落ちる。


刹那――

白い閃光。


一瞬の斬撃が、空気を切り裂き、

少女の劣化した装甲を真横に断ち切った。


砕けた鉄片が、音を立てて地に散る。


少女は目を見開いた。

――まさか、防御を破られるとは思っていなかった。


次の瞬間、彼女は全力を解放する。

渾身の一撃。


空気が裂ける音がした。


メインは震える剣を掲げ、

残った最後の気を押し込もうとする。


だが――身体は、限界だった。


視界が揺れ、足が崩れる。


倒れ込む、その瞬間が――

彼を救った。


必殺の刃は、寸前で空を切り、

メインの身体は地面に叩きつけられる。


意識が、闇に沈んだ。


その直後、仲間たちが駆けつける。

援軍を視認した少女は、即座に撤退を選んだ。


夕焼けに染まる地面。

メインは剣を握ったまま、血に塗れて倒れていた。


一方――李衛リ・ウェイ


冬月レイナとの戦闘は、凄惨を極めていた。


彼は剣を地面に突き立てなければ、

立っていることすらできなかった。


全身は切り裂かれ、血が鎧を濡らす。


その名――冬月レイナ。

後に知ることになるが、

それは想像を超える力と結びついた名だった。


ほぼ圧倒的な状況でありながら、

彼女は夕闇が街を覆うと同時に、自ら引いた。


夜。

生存者たちは、ようやく合流できた。


全員が重傷を負い、身体は限界だった。

言葉を交わす余力もなく、

重い足取りで拠点へ戻る。


仮設の部屋。

揺れる焚き火が、やつれた顔を照らす。


火の爆ぜる音だけが、沈黙を満たした。


――その夜、誰一人、安らかに眠ることはなかった。


傷は、長い時間を要する。

ゆえに彼らは決断する。


次の配給日まで――

一切、ファームには出ない。


異論はなかった。

これ以上の無理は、死を意味する。


その頃、別の場所では――

待ち伏せを行ったプレイヤーたちも、深手を負っていた。


死んだと思われていた弩使いが、闇から姿を現す。

彼は支援役の少女を支えながら歩いていた。


特殊スキル――

自身と物体を入れ替える能力で、辛うじて脱出したのだ。


だが、間に合わなかった。

無数の棘が身体を貫き、致命傷に近い。


二人は、夜へと消えていった。


時は流れる。

ランキングは変動し続け、

狩りを止めた李衛の順位は、徐々に下がっていった。


拠点の空気は、日に日に重くなる。


そして――

最後の配給日が、迫る。


節約の末、

メインたちはわずかな食料を残していた。


次の配給で勝ち取れれば、

しばらくは生き延びられる。


その小さな希望だけが、

彼らを繋ぎ止めていた。


やがて――

全プレイヤーが結界中央へ動き始める。


最終戦。

真の生存ゲームが、幕を開ける。


沈黙の信号交換。

最後に合図を出したのは――冬月レイナ。


彼女は剣を抜き、空を裂く。


水の原初光が、天へと走る。


メインたちも迷わず、

同じ水の光を放った。


翌朝。

暗い空に、炎の原初光が突き刺さる。


水は参加。

炎は拒否。


彼らは――参加を選んだ。


やがて、大地が震え、

全員が中央に集結する。


メインは、初めて見る。

――ランキング1位。


噂以上の圧。

空気が、重く、濃くなる。


弩使いの姿もあった。

しかも、完全な部隊を率いて。


そして――

冬月レイナが前に出る。


高所に座す領主たちへ合図。


狂気じみた笑い声。


「承認する」


冷酷な声が響く。


直後、無機質な女性音声。


「最終ゲーム開始。カウントダウン――」


人々は散り、建物へ。


「3……2……1……」


爆音。


結界が収縮する。


逃げ場は、ない。


武器が光り、

視線が交錯する。


「ゲーム……開始。」

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