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崩れゆく天国の影  作者: 霧崎 蒼司


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第6話

翌朝、最初の補給コンテナが上空から投下され、各地に轟音を立てて落下した。

それと同時に、すべてのプレイヤーのポイントランキングが、宙に浮かぶ巨大スクリーンに表示される。


だがその時点で、メインたちのグループは誰一人としてスコアに興味を示さなかった。

彼らが注視していたのはただ一つ――補給コンテナの落下地点。

この地獄で生き延びるための、唯一の命綱だった。


落下地点へ向かう道中、彼らは幾度となく魔物と遭遇した。

血の臭い、悲鳴、そして錆びた鉄の匂いが混ざり合う。

だが彼らは退かなかった。

それどころか、それを鍛錬の機会と捉え、一撃一撃、技の一つ一つを炎と煙の中で磨き上げていった。


目的地に到達すると、高層ビルの屋上から下を見下ろす。

地下鉄の入口のすぐそばに、大型のコンテナが一つ横たわっていた。

彼らは即座に配置を分担し、連携の準備に入る。


最初に飛び降りたのはメインだった。

突入前、彼は後方にいた少女に敵の気配を尋ねたが、彼女は首を横に振り、

「誰もいない」と断言した。


――だが。


メインがコンテナに手をかけた瞬間、

一般的な鉄製装甲を身にまとった人影が、突如として飛び出し、剣を振り下ろした。


Dランクの男、トビアスが即座に反応する。

空間魔法では巨大な物体を転移できないため、彼は攻撃魔法を選択した。

歪んだ空間の衝撃波が炸裂し、コンテナを強引にずらして、致命の一撃を防ぐ。


メインは即座に身を翻し、正面から敵と対峙した。

相手は素人ではない。

体術、速度、剣技――すべてが一段上だった。


同時に、敵の仲間である狙撃手と短剣使いが、後衛のトビアスと少女に襲いかかる。


メインとDランクの剣士による一騎打ちは、極限の緊張に包まれた。

剣と剣が幾度も衝突し、火花が散る。

荒い呼吸、わずかな踏み込み一つが、生死を分ける。


次第に形勢は敵に傾き、メインの体力は限界に近づいていた。


やがて、相手が口を開く。


「――半分ずつだ。

 お前が半分、俺が半分。ここで終わりにしよう」


メインは剣の柄を強く握り、相手の目を見据えた。

双方とも消耗しきっている。

このまま続ければ、共倒れは避けられない。


やがて、彼は小さく頷いた。

一時的な協定が結ばれ、両陣営は静かに退いた。


だが別の場所では、他のプレイヤーたちが熾烈な戦闘を繰り広げていた。

怒号と刃の音が区域一帯に響き渡る。


血が地面を赤く染めるその光景を、遠く離れた場所で――

ゲームの主催者である“領主”たちは、豪奢な椅子に腰掛け、

赤ワインを揺らしながら、監視画面を見て哄笑していた。


メインたちはわずかな食料を確保し、拠点へ戻った。

だが到着したその瞬間、待ち伏せを受ける。


敵は数で勝っていた。退路は完全に断たれる。

虐殺が始まった。

さっきまで共に戦っていた者たちが、容赦なく倒され、

すべての物資が奪われていく。


メインたちも包囲を免れなかった。

四つのグループが連携し、人の海のように彼らを囲む。


絶望の中、メインの心臓は張り裂けそうになった。

判断する余裕はない。

彼はただ、撤退の合図を送るしかなかった。


咆哮、剣戟、火花――

追撃は深夜まで続いた。


トビアスの空間魔法がなければ、彼らは確実に全滅していただろう。

連続転移によって距離を保ち、

ようやく、疲弊しきりながらも生還する。


巨大なコンテナは、人の背丈を優に超えていた。

トビアスは即座に詠唱し、それを安全地帯へ転移させる。


追っていた四つのグループは、

トビアスの空間能力の厄介さを理解し、次第に追撃を諦めた。

そもそもメインたちのポイントは低く、命を懸ける価値もなかった。


一時的に危機を脱した彼らは、

数日間、拠点周辺で低級魔物のみを討伐し、身を潜める。


その間に、メインの傷は癒え、再び戦えるまで回復した。

肉体も精神も鍛えられ、確かな成長を遂げていた。


数日後、グループ会議でトビアスが重い口を開く。


「このままじゃ駄目だ。

 次のコンテナを待つだけなら、

 強いプレイヤーと遭遇した瞬間、俺たちは終わる。


 空間魔法は便利だが、

 脅威だと認識されたら、真っ先に狙われる。

 そうなれば……すべてが崩壊する」


メインは黙ったまま、その言葉を噛み締めた。

最初は理解できなかった。

なぜ今、魔物狩りなのか。


だが考えれば考えるほど、トビアスの言葉は正しかった。

隠れ続けることは、衰退を意味する。


議論の末、彼らは決断する。


――外へ出て、狩る。


高位魔物の危険より、

強力なプレイヤーと遭遇する方が、遥かに致命的だった。


薄明かりが崩れた拠点の隙間から差し込む中、

彼らは武器を握りしめ、新たな旅路へと踏み出す。


古い地下施設――

かつて高位魔物と遭遇した場所へ、再び足を踏み入れた。


中級魔物が、恐るべき速度で襲いかかる。


メインは即座に回転し、剣で風の円を描く。

渦巻く風の装甲が形成され、

触れた魔物は弾き飛ばされ、悲鳴を上げた。


その隙に、全員が一斉に突撃し、群れを殲滅する。


地下は墨を流したように暗い。

トビアスは指を鳴らし、壁に粘着性の油を広げ、火魔法を発動した。

炎が灯り、通路を照らす。


感知能力を持つ少女がいても、

彼は光を用意することを選んだ。

その慎重さに、誰も異を唱えなかった。


奥へ進むにつれ、魔物の数は減っていく。

違和感を覚えたメインは、後退の合図を送る。


――だが、その瞬間。


闇の中から冷たい刃が飛び出し、

彼の胸を貫こうとした。


メインの身体が震える。

だが生死の境で、彼は全エネルギーを風の装甲に集中させた。


爆音と共に刃は弾かれ、

メインは後方へ吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。


「気をつけろ!」

トビアスが叫び、即座に結界を展開する。


闇の中から、ゆっくりと人影が歩み出る。


中華風の衣装を纏い、

長い髪を後ろで束ねた青年。

若い顔立ちとは裏腹に、その眼差しは鋭かった。


メインは剣を支えに立ち上がる。

冷や汗が額を伝う。


トビアスは、言葉を失ったまま立ち尽くす。


やがて青年が微笑み、静かに告げた。


「久しぶりだな、トビアス」


空気が凍りつく。


「……李偉。

 なぜ、ここにいる?」


青年――李偉リ・ウェイは肩をすくめた。


「少し、ファームしに来ただけさ」


その言葉に、トビアスは声を荒らげる。


「ふざけるな!

 なぜこのクソみたいなゲームに参加した!」


メインが割って入る。


「待て……トビアス。

 知り合いなのか?」


沈黙の後、トビアスは重く息を吐いた。


「……ああ。

 彼はC+ランクの冒険者だった。

 俺の妹のパーティメンバーだ。

 今は……Bランクだろう」


一同が凍りつく。


もし本当にBランクなら、

正面から戦えば勝ち目はない。


李偉は目を伏せ、静かに語り始めた。


かつて、彼と妹のパーティは、致命的な事件に遭った。

恋人が、解呪不能な高位呪いに侵されたのだ。


絶望の最中、“領主”が彼に接触した。

条件付きで、救うと――

代わりに、このゲームを“面白く”しろ、と。


“面白い”とは、

死者が多く、惨たらしいことを意味していた。


トビアスの拳が震える。

すべてを理解した瞬間だった。


メインもまた、言葉を失う。

それが、どれほど痛みを伴う選択か――痛いほど伝わった。


李偉は手首を返し、細身の剣を顕現させる。

日本刀のように薄い刃。

白い柄、王家のために鍛えられたかのような意匠。


トビアスが青ざめる。


「……その剣。

 本当に……」


「時間を無駄にしたくない」


李偉の声は冷え切っていた。


「俺が見逃せば、

 呪いを解く唯一の機会は消える」


刃を構え、殺気が地下に満ちる。


全員が戦闘態勢に入る。


仲間の一人が叫んだ。


「リンク武器だ!

 とんでもなく危険だぞ!」


誰もが理解した。

――ここから先は、生きるか死ぬかの戦いだ。

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