第16話: まだ始まりに過ぎない
初期の章は、日本語や表現の面で不十分な部分が多く、
読みにくい箇所があるかと思います。
どうかご理解いただき、引き続き楽しんでいただければ幸いです。
読んでくださり、ありがとうございます。
翌朝。
太陽がまだ地平線の向こうから完全には顔を出していない時間帯、協会の各部隊はそれぞれ割り当てられた区域へと散っていった。
森一帯は淡い朝霧に包まれ、湿り気を帯びた黄金色の光が漂う。あまりにも静かで、かえって不気味なほどだった。響くのは、武器がぶつかり合う音と、鎧が擦れる低く重い律動だけ。
メインは剣の柄を強く握りしめ、深く息を吸い込む。
――今日は、自分自身を証明する日だ。
茂った樹冠の奥から魔物が躍り出た瞬間、彼は即座に踏み込んだ。
振るわれる一太刀一太刀は鋭く、無駄がなく、その速さに仲間たちが思わず目を見張るほどだった。
だが、その力は単なる剣技によるものではない。メインの身体を巡る――**「気」**の存在が、その動きを支えていた。
かつて黒騎士が語っていた通り、気の運用は体内の魔力脈に依存する。
一般人が持つ魔力脈は通常五本。気はそれらの脈を循環し、段階を経て初めて戦闘力へと変換される。
ゆえに、魔力脈の少ない者は流速も効率も制限され、エネルギーを一気に引き出すことはできない。忍耐強く、少しずつ蓄積するしかないのだ。
過去には、典型的な例が存在した。
東方出身の戦士が、原初の風属性状態を披露したことがある。完全形へと至るため、彼はまず通常状態で戦いながら、少しずつエネルギーを転化していった。
速度は遅い。しかし力が臨界点へ達した瞬間、戦場全体が嵐に飲み込まれたかのようだった。
だからこそ、多くの魔力脈を持つ者は圧倒的に有利なのだ。
気の循環速度だけでなく、保有できるエネルギー量そのものが違う。
魔力脈に恵まれた魔術師であれば、広域魔法を二度、三度と連続で放つことすら可能だ。普通の者が一度きりで限界を迎える中で。
気を扱う剣士にとって、その差は魔術師ほど顕著ではない。
だが、気と魔法を組み合わせたとき、その威力は飛躍的に増大する。
もっとも、メインはまだ自らの原初属性を解放できていない。
それまでに選べる道はただ一つ――気と剣技を極限まで研ぎ澄ますこと。
迷わず、分散せず。
剣を制し、次に気を制す。その先に、あらゆる障壁を超える力がある。
今日の戦場で、メインの剣はそれを雄弁に物語っていた。
彼は木々の根を足場にしなやかに跳躍し、霧の中で剣閃を煌めかせる。
気を刃へと通すたび、一撃の重みは増し、魔物の身体を一瞬で両断するほどの威力を見せた。
後方の仲間たちが目にしたのは、走り抜ける光跡と、倒れ伏す魔物の亡骸だけ。
速度も、気の練度も――明らかに、メインは急激な成長を遂げていた。
だが彼自身は理解している。
これは、まだ始まりに過ぎない。
中級クラスの魔物との戦闘は、もはや容易だった。
一閃で身体は真っ二つに裂け、血飛沫が空に赤い線を描く。
鋭利な剣筋と機動力が合わさり、彼の進歩は誰の目にも明らかだった。
国家の側から見ても、少なくとも彼が自力で生き延びられる段階に近づいていることは、安堵材料だっただろう。
注目すべきは、彼の戦い方が純粋な剣技のみに基づいている点だ。
属性スキルも魔法も使わない。
盾の騎士が広域支援型の異色な戦法で際立つ一方、メインはあくまで剣士。
命を剣に預け、機を読む感覚に優れた存在だった。
その無駄のない動きと正確無比な斬撃に、第一班の女性隊長でさえ内心で彼の実力を認めざるを得なかった。
冒険者として歩み始めて一年にも満たない青年――
しかし、その戦果と成長速度は、決して侮れるものではない。
この世界において、力は地位の絶対的尺度ではない。
長く生きれば強者になるわけでもない。
国家の頂点に立つ者たちは、単なる武力ではなく、生存能力、適応力、そして何より――人の信頼を手にしている。
上級騎士は、最強である必要はない。
戦えるだけの力を備えた後は、より苛烈な任務を通して、判断力と戦略眼を磨く。
この世界で頂点に立つか、底に沈むかを分けるのは、純粋な強さではなく――情報と忠誠心だ。
いかなる種族も群れで生き、群れが真に強くなるのは、個が結束し、指導者を信じ、従うときだけである。
力を極限まで追い求めれば、やがて限界に突き当たる。
世界の根源に触れ、死者を蘇らせ、時間の流れすら干渉すると讃えられる魔女協会でさえ、「最強」とは見なされていない。
彼らは常識を超えた存在ではあるが、無敵の戦士ではないのだ。
もしメインが上級官僚級の地位を目指すなら、十年の鍛錬が必要だろう。
ましてや古代の魔王、あるいは並の魔王に至るなど、ほぼ不可能に近い。
聖騎士級の素質はあっても、異種族の頂点に立つ存在との差は、埋めがたい深淵だ。
獣人族の至高龍王の逸話は今も語り継がれている。
第三人類王国が彼の領域を侵した際、国家総出の聖騎士団と五大指導者が揃ってようやく抗戦できた。
エルフ、ドワーフ、さらには海王との同盟がなければ、滅亡は免れなかったという。
……
現在に戻ろう。
最初の魔物の波を殲滅した後も、メインたちは休まなかった。
専任部隊が死骸から鉱石を回収するため、役割は明確に分けられていた。
内部での争いや欲を防ぐためだ。
次の地点へと移動する。
今度は黒騎士の出番だった。
紅く輝く剣が抜かれ、血の軌跡が空を裂く。
盾の騎士が召喚した巨大な蔓を足場に、彼は戦場を幽鬼のように駆け抜け、瞬時に魔物を切り裂く。
かつてメインと剣を交えた時の試し合いではない――これが本来の実力だった。
後方で盾の騎士が地面に手を置くと、灰褐色の花々が地中から咲き誇る。
それらは毒気を放ち、魔物の動きを著しく鈍らせた。
メインは即座に機を掴み、黒騎士と連携して止めを刺す。
自分たちの区域を掃討すると、さらにセリーヌたちの支援へ向かい、討伐速度は飛躍的に向上した。
戦闘は四時間に及んだ。
魔物は次々と押し寄せたが、連携により殲滅速度は保たれた。
それでも、過酷なペースに耐えきれず撤退する冒険者も多い。
メインも疲労を隠せず、荒い息と汗に濡れた髪を揺らしながら、それでも隊列を維持した。
盾の騎士は制圧役のため、比較的余力があるように見えた。
ようやく一息つける頃、セリーヌは微笑み、地元の食堂へ皆を誘った。
誰も断らなかった。
激戦の後の火の温もりと食事の匂いは、何よりのご褒美だった。
食事の最中、セリーヌがふと尋ねる。
「あなたの戦い方、少し変わっているわね。盾の騎士なら前線で守るはずなのに……むしろ支援型の魔術師みたい。実際、どれほどの実力なの?」
盾の騎士は笑い、静かに説明した。
彼は伝統的なタンクではない。
敵に不利な環境を作り、味方に好機を与える――それが彼の本質だ。
蔓、毒花、土壁。それらはかつての死のゲームで使った最強技の縮小版に過ぎない。
「……実は、今の最強技はもう別物なんだ」
誇らしげに彼は言う。「もっと進化していて、危険だ。ただ……まだ使う機会がないだけ」
現在はゴーレム召喚の訓練に注力しているという。
攻防に優れる巨躯の土の戦士。ただし動きは鈍重だ。
全体的に見れば、彼は「幅広いが極端ではない」タイプ。
剣と気に全てを注ぐメインとは対照的だった。
セリーヌは興味深そうに頷く。
派手さはないが、長期戦で真価を発揮する能力。
その堅実さこそが、彼女の目を引き始めた理由だった。
その後の日々は瞬く間に過ぎた。
協会は魔物掃討を続け、メインたちの連携も洗練されていく。
彼らは戦うだけでなく、薬の運搬、配給、家屋の修繕にも携わり、この地への帰属意識を深めていった。
だが、現実は重い。
患者数は減らなかった。
薬は届き、努力も続けられている。それでも病は広がり続ける。
密談の中で、メインは輸送路を襲う犯罪集団や回収部隊を狙う影の存在の噂を耳にする。
すでに命を落とした仲間もいた。
最初に声を上げたのはセリーヌだった。
「このままじゃ、犠牲者が増えるだけ。先に叩くべきよ。」
異論はなかった。
二週間共に戦った経験が、彼らに確信を与えていた。
計画は決まり、メイン、盾の騎士、黒騎士が直接狩りに出ることとなる。
緊張した準備の裏で、もう一つの変化が芽生えていた。
――セリーヌと盾の騎士の関係だ。
最初は密やかな会話から始まり、やがて村での短い逢瀬へ。
メインと黒騎士は少し離れた場所から、それをからかい、応援した。
星降る夜、セリーヌは皆の前で盾の騎士の手を取った。
その小さな灯火は、血と危険に満ちた日々の中で、確かな温もりをもたらした。
だが外の世界では、闇はまだ退いていない。
そしてメインたちは、初めて――
魔物ではなく、人間と戦う戦場へ踏み出そうとしていた。




