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崩れゆく天国の影  作者: 霧崎 蒼司


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第15話

一週間にわたって任務をこなし続け、貧しい村々から小規模なダンジョンに至るまで巡り歩いた結果、メインたちの一行は、これまでになく遠くまで進んでいた。

果てしなく続く道。深い森を越え、暗い洞窟を抜け、枯れ果てた草原を踏みしめる。時は流れ、気づけばさらに一週間が過ぎ去り、ついに彼らの眼前に――人類第二王国の外縁部における最大の領地が姿を現した。


だが……その光景は、彼らが思い描いていたものとはあまりにもかけ離れていた。


灰色の空が重く垂れ込め、吹き荒れる風は刃のように肌を切り裂く。大地はひび割れ、乾ききっている。道の両脇に並ぶ木々は力尽きたように倒れ、枯れた枝葉が弱々しく風に揺れていた。

そこかしこで、痩せ細り、血色を失った人々が重い足取りで歩いている。顔には紫がかった痕が浮かび、呼吸は今にも途切れそうなほど弱々しい。若く健康な者でさえ、この土地から漂う異様な寒気をはっきりと感じ取れるほどだった。


「まさか……ここが、噂に聞く最大の領地だっていうのか?」


メインは低く呟き、目を細める。


一行は周囲を一巡した。漂う喪失感と沈痛な空気が、自然と彼らの歩みを鈍らせる。やがて彼らは、状況を探るため地元のギルドを訪れることにした。


扉を開けた瞬間、鼻を突く酒と乾いた血の臭いが一気に押し寄せる。中にいたのは、活気あふれる若き冒険者たちではなかった。

そこに集っていたのは主に、人類第三王国や死の領域、あるいは荒廃地帯出身の傭兵たち。頬はこけ、疲弊した眼差しには冷淡な諦観が宿っている。


メインは何人かに声をかけてみた。しかし返ってくるのは、侮蔑の視線か、短い一言だけだった。


「情報が欲しけりゃ、金を払え。」


いずれ外部の人間にも知れ渡るような話ですら、彼らは対価を要求した。無駄だと悟ったメインたちはギルドを後にし、直接この地の住民から話を聞くことにした。


幸運にも、一人の老婆が彼らを領地で唯一の病院へと案内してくれた。

だが、そこで目にした光景は、外の惨状をさらに上回るものだった。


老朽化した簡易ベッドが所狭しと並び、患者たちで埋め尽くされている。激しく咳き込み痙攣する者、肌が紫色に変色した者、骨と皮ばかりになり、灯火が消えかけるように息をする者――。


そこで彼らは、ようやく真実を知ることになる。


この疫病は、空気と水を媒介して感染し、住民の間に広がっていた。その根本原因は、医師たちの話によれば――

魔物を討伐した後、体内の鉱石を回収しなかったことにあるという。


放置された魔物の死骸は腐敗し、目に見えない毒性の気体を放出する。それが水源と空気に溶け込み、病を蔓延させていたのだ。


住民たちはこの事実を領主に報告していた。しかし彼にも打つ手はなく、事態は長期間放置され、患者は増える一方だった。


不可解なのは――


本来、ダンジョンや深い森に棲む魔物は人里から十分に距離があり、住民側で対処できるはずだった。

だが今回に限っては、その毒気が自ら溢れ出し、安全圏を越えて領地へ侵入してきたという。


「……偶然で片づけられる話じゃないな。」


盾の騎士が低く呟き、拳を強く握る。


一行の脳裏に、ある仮説が浮かび上がった。

未発見の特殊な魔物が、すべての裏で糸を引いているのではないか――。


メインの眼差しは沈み込む。

これは単なる自然災害などではない。

何か――意図的で、陰湿な存在が、この領地を破滅へと追い込もうとしている。


病院で話を聞いた後、メインたちは森の奥へ調査に向かった。魔物の棲息地は村からそれほど離れていないが、空気は異様なほど澱み、森そのものが汚染されているかのようだった。


ほどなくして、それらが姿を現す。


灰色の肌を持つ粗野な魔物たち。狂気を宿した赤い眼。

特別な種ではない――ごく一般的な魔物だ。だが、その行動は明らかに異常だった。本来は森の奥に留まるはずが、村の縁まで押し寄せ、地面を掘り返して地下に巣を作ろうとしている。


「ありえない……この種が森を離れることはないはずだ。」


盾の騎士は眉をひそめ、盾を構える。


戦闘は即座に始まった。

メインの剣は冴え渡り、分厚い皮膚を易々と切り裂く。黒騎士は大剣に纏う黒気を利用し、一撃ごとに肉塊を引き裂いた。盾の騎士は木の根を召喚して防壁を築き、魔物を地面に縫い止め、鋭い棘でとどめを刺す。


戦い自体は難しくなかった――だが、魔物たちが最期まで狂ったように叫び、もがき続けたその姿は、強烈な違和感を残した。


片付けを終えた直後、声が響いた。


「あなたたちも、こいつらを討伐しているの?」


森の奥から現れたのは一人の少女だった。長い髪を束ね、革鎧を身にまとい、血の付いた槍を手にしている。鋭い眼差しの奥に、隠しきれない疲労が滲んでいた。


メインが歩み寄る。


「君も、村の近くに出没する魔物を調査しているのか?」


少女は頷いた。


「私は魔物殲滅協会の一員よ。冒険者たちが去った後、村を守る人間がいなくなった。だから隊長が臨時部隊を編成したの。」


その言葉に、一行は顔を見合わせる。

疫病の原因は魔物そのものではなく、集団的な異常興奮だった。

追い詰められた魔物たちは異常行動を起こし、急ぎ討伐されたため鉱石の回収が間に合わず、毒気が拡散した――それが、今の惨状を生んだのだ。


少女は静かに続ける。


「人手が足りない。討伐だけじゃなく、魔物を煽動している存在を突き止めなきゃ、この惨事は終わらない。……力を貸して。」


数秒の沈黙の後、メインは頷いた。


「分かった。俺たちも参加する。」


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