第11話
マルクス・ベッカーの剣は、なおも重く、
まるで周囲の空間ごと叩き潰そうとしているかのようだった。
メインは必死に受け止めるが、
そのたびに悟らされる――
このままでは、身体が先に限界を迎える。
理論は理解している。
マルクスが教えたことも、頭では分かっている。
だが、それを戦闘の最中に行動へ落とし込むことは、想像以上に難しかった。
――気とエネルギー。
似ているようで、決して同じではない。
気とは、刃を包み込む鋭い流れ。
エネルギーとは、人の血肉の奥底に眠る根源の力。
この二つを完全に融合させることこそが鍵。
だがメインはこれまで、
ただ「気を纏わせる」ことしか知らなかった。
自身のエネルギーを、そこへ流し込むなど――
一度も試したことがない。
だからこそ、
彼の斬撃は、どこか未完成だった。
その瞬間――
マルクスの剣が、頭上から叩き落とされる。
あまりの重圧に、
殺気だけで背筋が凍りつく。
生存本能がメインを後退させた。
剣が地面を叩き、
乾いた爆音が轟く。
床は砕け、岩片が弾丸のように飛び散った。
着地したメインは、荒い息の合間に叫ぶ。
「……俺が、あなたの友人に似ているから……
それだけで、ここまで手を貸すんですか?」
マルクスは剣を振るい続けながら、
黒鎧の奥から声を響かせる。
「そうだ。
お前は、悪い人間じゃない。
助けることで……
より良い結末に辿り着けるかもしれん」
「でも、これは生き残りを賭けた戦いだ!」
マルクスは肩をすくめ、薄く笑った。
次の瞬間――
彼の姿が、視界から消える。
刹那、
黒剣が横薙ぎに振るわれた。
メインは咄嗟に剣を構えるが、
衝撃がそのまま体内へ流れ込み、
身体が吹き飛ばされる。
視界が歪み、
冷たい石床に叩きつけられた衝撃で、
全身が痺れた。
――金属音が、耳元で鳴る。
気づいたときには、
マルクスはすでに背後に立っていた。
決定打を放つ体勢。
その刹那、
遠い記憶が、脳裏に閃く。
――――――――
「アイツ、いつも最新の最強キャラ選ぶんだよな。
俺、この旧キャラずっと育ててるのに、全然勝てねえ」
「運営ほんとバランス崩壊してるわ。新キャラ強すぎ」
――ヘッドセット越しに、友人の笑い声。
「じゃあ、お前も新キャラ使えばいいじゃん。
誰でも選べるだろ?」
「……でもさ、
俺、このキャラに時間かけすぎたんだよ」
「はは。
だったらまず相手を知れよ。
勝ちたいなら、どこが強いか理解しなきゃな」
――――――――
記憶が消え、
現実が戻る。
黒剣が、振り下ろされる。
メインは歯を食いしばり、
全身に力を込めた。
――今しかない。
マルクスが教えた通り、
身体の奥底からエネルギーを引き出し、
刃を包む気の流れへと叩き込む。
全身が引き裂かれるような感覚。
熱い奔流が、冷たい鋼へと流れ込む。
「――はあああっ!!」
下から上へ、
弧を描く斬撃。
轟音が空間を震わせる。
地面が砕け、
衝撃波が土煙を巻き上げ、
瓦礫が飛び散る。
その一撃は、
ついに――
マルクスの動きを止めた。
鎧が光を放ち、
初めて、兜の奥の顔が露わになる。
煙の中、
向かい合う二人。
冷や汗が流れ、
血と混じってメインの体を濡らす。
息を荒げながら、
彼は震える声で呟いた。
「……できた……
俺、今……」
マルクスは一瞬だけ笑い、
鋭い眼差しで頷く。
次の瞬間、
強烈な蹴りが叩き込まれ、
メインは吹き飛ばされた。
「それは、まだ入り口だ。
――続けて見せろ」
建物内に、
金属音が連続して響き渡る。
一方、仲間たちの戦場。
覚悟はしていた。
だが心の底では、
誰もが敗北を恐れていた。
冷たい汗が頬を伝う。
――最強。
ランキング一位。
男は薄く笑い、
躊躇なく突進してくる。
「死ね」
冷たい声。
剣が光り、空間を切り裂く。
メインは必死にかわす。
刃が頬を掠め、
真紅の血が走る。
反撃するも、
男は紙一重で全てを躱す。
その瞳は、恐ろしいほど平静だった。
その瞬間、
マルクス・ベッカー――黒騎士が咆哮し、
重い黒剣を振り下ろす。
だが一位は、
首を傾けるだけで避ける。
そして、
鞘から――
銀色に輝く剣を抜いた。
「数が増えれば勝てると思うな」
剣が円を描く。
光の斬撃が死の軌跡を刻む。
誰も逃れられない。
全員が傷を負い、
血を流し、膝をついた。
侍の少女が叫ぶ。
「下がるな!
退けば、全て喰われる!」
彼女は斬りかかるが、
容易く受け止められ、
衝撃波が仲間たちを吹き飛ばす。
李衛も突進する。
「まさか、再会が戦場とはな!
自分を神だとでも思っているのか!」
一位は口角を上げる。
「ただ、お前たちより上なだけだ」
剣舞が李衛を追い詰める。
クラウスが詠唱し、
光の拘束輪が足元を縛る。
「今だ! 抑えろ!」
だが――
レイナが立ちはだかる。
メインが叫ぶ。
「触るな!!」
突進するが、
マルクスが立ち塞がる。
「焦るな。
――まだ、その域じゃない」
その間、
クラウスとトビアスは必死に持ち堪える。
侍の斬撃を受け止め、
逆に反撃。
トビアスが叫ぶ。
「今の……気を使ったのか!?」
「……ああ。
でも今度は、ちゃんとやる!」
地鳴りと共に、
巨大な木の門が出現。
二体の木の巨人が戦場を蹂躙する。
「いけるぞ!!」
だが一位は冷笑し、
容易く切断。
レイナも同様。
続いて、
結界が閉じ、
巨大な花が咲く。
濃い緑の煙が広がる。
「この煙……
強化も回復もできない!」
敵の動きが鈍る。
「今だ!!」
総攻撃。
――だが、
限界は近い。
クラウスが崩れ落ちる。
結界が砕け、
敵は再び本気を取り戻す。
背後から、
一位が迫る。
マルクスに押され、
振り向けない。
剣が閃く。
「死ね」
――絶望。
だが、その瞬間。
地面が裂けた。
巨大な存在が現れる。
「楽しそうだな。
呼ばれなかったのは残念だ」
圧倒的な威圧。
全員が吹き飛ばされる。
「……がっかりだな。
それだけで限界か?」
腕を振ると、
十体の悪魔が現れる。
絶望。
メインは震える声で呟く。
「……どうやって……」
その時――
黒騎士が立ち上がった。
剣を地に突き刺し、
咆哮する。
「聞け!!
確かに敵は強い!
だが――
ここで倒れれば、
全てが無意味だ!!」
叫びが、心に火を灯す。
「俺たちは今、仲間だ!!」
――そして。
「選べ!!
犬のように死ぬか、
戦士として生きるか!!」
「戦う!!」
「諦めるな!!」
メインは剣を握る。
「……まだ、やれる」
全員が立ち上がる。
怪物は嗤う。
「いいだろう……
絶望をもう一度見せてやる」
悪魔が突撃する。
だが――
戦いは、まだ終わらない。




