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愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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086 帰りたい

 ざっと辺りを見渡す。

 脱出経路として最適なのは窓だから、もちろん近づけるような状況にはない。

 息苦しさと恐怖で泣き出しそうになる自分をなんとか奮い立たせ、ドレスの裾を破き口に当てた。


 ない時よりかは幾分かマシなものの、所詮はその程度。このままだと確実に死んでしまうわ。


 窓から逃げ出せないとなると、脱出経路は目の前にある扉だけ。


「まったく最後の最後まで、やってくれるわね」


 私は上半身を押し付ける形で、扉を押す。しかししっかりとした扉は、ビクリともしない。


「私の力じゃあ、全然ダメね」


 こんなことならアッシュの言う通り、もう少し太って体力をつけておくべきだったわね。

 あの頃からだと少しは太ったけど、でもまだ全然だもの。


「帰ったら私もルカと一緒に騎士たちと体力作り……しよう」


 だんだんと息苦しくなってくる。しかし少しでも声を出していないと、恐怖から自分がダメになってしまいそうだった。


「早く帰りたい」


 私を動かす原動力は、どこまでもそれだった。早く帰ってルカの誕生日の用意をしなくちゃ。

 でもその前にあの子を抱きしめたい。


 今回のことできっと、たくさん傷ついてしまったはずだから。

 なんなら一緒に寝るのもいいなぁ。三人で大きなベッドで寝てみたい。なんか本物っぼいわよね。


 そんなことを考えながら私は肩で扉に何度もタックルをする。

 それでも扉は全く動くことはない。


「ルカは……大丈夫かな」


 だんだんと目の前がぼやけて行くのが分かった。帰って家族団らんがしたいだけなのに、まったく邪魔が入りすぎよね。


「……アッシュ様……」


 やっと少し距離が縮まったのに、私……。扉に寄りかかったまま、力が抜けた足から床に崩れ落ちる。

 目を閉じてはダメだと分かってはいても、もうどうすることも出来ない。

 

「ビオラの退場……て、病気……じゃ……なかった……のか……な」


 諦めかけたその瞬間、いくつもの大きな足音が聞こえてくる。

 ルカが助けを呼んでくれたのだろうか。だけどそれを確認するだけの力はもうない。


「ビオラ! ビオラ!」

「……アッシュ……?」


 どこまでも大きな音と、扉がきしむ音。

 私の力ではビクともしなかった木製の扉は、アッシュによって蹴破られた。

 木の破片がバラバラと崩れ落ち、その向こうに私が求めていた人の顔がある。


 アッシュの顔はどこまでも青ざめていた。

 そして彼は私をきつく抱きしめる。

 「会いたかった。ありがとう」そう伝えたいのに、声は出なかった。


「ビオラ、ビオラしっかりしろ!」


 泣き出しそうなアッシュの頬に触れた瞬間、私の意識はなくなっていた。

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