008 小さな第一歩
朝、またいつものように、あの三人の侍女たちがノックもなしに入室してきた。
私がベッド上ですでに起きていたのにやや驚きながらも、彼女たちはあからさまに嫌そうな顔をする。
「もう起きていらしたんですか?」
「ええ」
「そんなに体力があり余っていてお暇なら、もっとご自分のことをやって下さってもいいんですよ?」
昨日、ラナと呼ばれた侍女が一番に声を上げた。
朱色の髪を一つに縛りまとめ、同色の瞳を持つ彼女が三人の中央にいるところを見ると、この三人の中では彼女がリーダー格のよう。
「自分で自分のことをねぇ……。でもそれって、あなた達の仕事ではないの?」
「はぁ?」
「だって侍女でしょ、あなた達。私がその仕事をしてしまったら、あなた達は何をするのかしら」
食事を持っていた侍女の一人が、叩きつける様にテーブルに食事を置く。
その勢いで、スープがテーブルへとこぼれた。
ただでさえ具のないスープは、もう半分くらいになってしまっているだろうか。
あの固いパンも一緒に置いたため、パンは水分を吸いつつあった。
「あたしたちは暇じゃないんです。他の仕事もたくさんあるんですよ」
「そうです。馬鹿にしないでください!」
「馬鹿になんて、誰もしていないわ。てっきり、あなたたちはこの部屋付きの侍女かと思ったけど、もっと身分が低かったのね。ごめんなさい?」
私はそう言いながら、ベッドから起き上がる。
侍女の仕事にも何種類かある。
それこそただの下働きから、洗濯のみをする者。
部屋付きの侍女や、特定の身分の高い人間に仕える者までだ。
そしてその階級や仕事によって、支払われる給与も全然違ってくる。
この部屋に特定の人間で出入りしているのは、この三人だけ。
だから部屋付きの侍女か、ビオラ専用の侍女かと思ったんだけど。
「下働きの侍女では、お部屋のことまでは分からないわね」
「なんですって!?」
「あら違ったの? 毎日食事しか運んでも来ずに、部屋のことなど全くしないから、そうだと勘違いしてしまったわ」
洗濯物の回収をするわけでも、部屋の片付けをするわけでもない。
一日二食か三食か知らないけど、ただそれを運んで片付けるだけ。
湯や身支度の用意もしてくれるわけでもないし。
あとは全部自分でやらなければいけないのだ。
これで下働き以上の給与をもらっていたら、怒れてくるでしょう。
サボるのも大概だわ。
だいたいここは公爵家なのだから、給与だってそんなに安くもないはずなのに。
「王女様は病気になってから、頭がおかしくなったんじゃないですか?」
「そうかもしれないわね。誰も医者を呼んでもくれなかったようだし」
「はぁ? それ、あたしたちのせいだとでも言うんですか?」
悪びれもなく、一人の侍女は言った。
その意見に残りの二人も、ニタニタしながら頷く。
私はため息をつきたい気落ちを押さえ、ただ冷静に言葉を紡いだ。