070 孤独からくる不安
父からのプレゼントだという小包は、この世界に未だ慣れない私でもすぐに理解できるものだった。
中には一人の男性の絵姿と、その人の詳細が書かれた紙が入っている。
歳は二十歳。
薄い緑の髪に、赤色の瞳。
公爵よりも全体的に丸めで、背に当たる椅子の感じからすると背は低そう。
色白なせいかそばかすがやや目立ち、絵姿という特性もあって、おそらくはこの二倍ほどの横幅が想像できる。
これでも隣国の王子らしく、王位継承権は低いものの初婚となるらしい。
いつかの交流の際に、ビオラを見染めていたと書かれていた。
「たとえそうであったとしても……」
私には彼の記憶などない。
まぁ、あったとしても全然これを見ても興味などわかない。
私の帰るべき家はあの公爵家で、あの二人が家族だから。
「娘を離婚させてまで、この人と再婚させていって。どんな裏があるのかしらね」
隣国との結びつきにしては、何も一度結婚した私を差し出すっていうのも普通考えておかしいでしょう。
向こうに難があるか、別の思惑があるか。
またはその両方か。
「どちらにしてもここから出られないのが問題よね。待つしかないのかな」
出て来るのはため息ばかりだった。
そして時間が過ぎれば過ぎるほど、どれだけ大丈夫だと思っていても心が揺らぎだす。
私はちゃんと家族として、あの家でその役割が出来ていたのだろうか。
ルカはやはり本当の母の方がいいのではないか。
バカみたいな考えだと分かってはいても、孤独は不安を煽り、外と遮断されたこの空間はどんどんと苦痛になっていった。
それから二日。
何の情報も与えられないまま、私は昔使っていた自室に軟禁されていた。
辛うじて窓から見える日だけが、時間の経過を教えてくれている。
「一人がこんなに辛いなんて」
ビオラになる前は、一人の方が気楽だって思っていたのに。
ここにいれば、何もしなくとも三食は出てくる。
でも何をすることも許されないから、それが苦痛すぎるのよね。
みんなはどうしているのかしら。
ルカはちゃんとご飯食べたかな。
心配……してくれているわよね。
今はお昼を少し回ったくらい。
いつもならルカの虫観察に付き合っている時間だったのに……。
何でこんなことになっちゃったのかな。
「ため息ばっかりついてたって、どうしようもないのに」
ウダウダと一人窓の前に立って外を眺めていると、部屋をノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
こんな時間に誰かしら。
ああ、もしかして公爵家から人が来たとか?
しかしそんな期待空しく、部屋に入って来たのは数名の侍女だった。
「ビオラ様、今からお支度をするようにと国王陛下から仰せつかっております」
「具合が悪いから出たくないのだけど」
こんな時間から支度って、全然いい予感しないんだけど。
しかも迎えが来たってことでもないわよね。
ずっとこの中にいるのも嫌だけど、父の思惑通りに動くのはもっと嫌なのよ。
「申し訳ございません。何をしても支度をして連れ出すようにと言われております」
「拒否権はないということね」
「申し訳ございません」
ただでさえ、逃げ出したら連帯責任だと言われているくらいだもの。
行かなかったら、それはそれで同じなんでようね。
もういいわ。
何を考えてるのか、見に行ってやろうじゃない。
むしろ全部壊してやりたいくらいよ。
腹を決め、私は侍女たちにされるがまま外出の用意をした。
公爵家でのドレスとはまた違い、派手でやや胸が開いて露出のあるAラインのワンピースを着せられ、ハーフアップされた髪にはたくさんの宝石のついた髪飾りがつけられた。
化粧も私の好みとは違い、夜会にでも行くのかと思うほどしっかり目に施されている。
そして護衛騎士たちに連られ中庭へ向かうと、やはりというか、そこには会いたくもない男がさわやかさを演出しながら座っていた。




