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065 見えない糸口

 降り出した雨に私たちがルカたちを迎えに行こうとすると、中庭の奥から二人の騎士がルカたちをそれぞれ抱えてやってきた。


「奥様、雨が急に降りだしたのでお連れいたしました」


 騎士たたちは私たちの前に二人を下ろすと、丁寧に頭を下げる。

 あの日以来、ほんの少しだけ騎士たちとの距離も縮んだ気がした。


 前までこんな風に会話をすることすらなかったのだから。


 基本、前の私の使用人たちよりは初めから彼らは礼儀正しかったけど、でも距離はあったのよね。


「ありがとう、助かったわ。ルカ、濡れてしまった体を拭かないと」


 私はルカに視線を合わすために屈むと、なぜかルカは私から視線をそらした。


「ルカ?」


 きっと雨なのだとは思う。

 だけど濡れた髪から滴る雨が顔にかかり、ルカが泣いているようにも見えた。


「何かあったの?」


 そんな風に声をかけてみても、ルカはそっぽを向いたままこちらを見ようともしない。


 急に何があったのかしら。

 騎士団の見学に行くまでは、あんなにも上機嫌だったのに。


 私は答えを求めてバイオレッタの方を見ると、彼女は母の膝に抱きつき、その顔を隠してしまっていた。


 様子がおかしいことだけは分かる。


「何かあった?」


 ルカたちの代わりに騎士たちに尋ねても、二人はただ困ったように顔を見合わせるだけ。

 

 何かあったのだけは確か。

 だけど今、この状況で聞き出すのは得策ではないわね。


「とにかく今は風邪を引いたら困るわ。二人ともお屋敷で体を拭きましょう」

「ええ、そうですね」


 フィリアも何かを察したのか、私の意見に同意してくれる。


 そして屋敷に戻り、体を拭いたあと、フィリアたちは乗って来た馬車で帰宅していった。

 

 去り際にもし無礼がありましたらと、何度もフィリアは頭を下げていたが、子ども同士のこと。

 特に喧嘩をしたわけでもないのだから大丈夫だと私も答えた。


 しかしいつもなら共にとる夕食すら、今日ルカは拒否した。

 どうしても部屋で食べたいと頑ななルカに、私はそれ以上どう声をかけていいのか分からなかった。


 久しぶりの公爵との二人の食事。

 ルカが気になりすぎるのもあってか、どうも落ち着きがなくなってしまった。


「今日、あの子爵夫人が来ていたらしいな」

「ああ、はいそうです。スタンピードでのお礼もかねて遊びに来てくれたんです」

「何やら少し問題があったと報告を受けているが」


 その言葉に、私は顔を上げて彼を見た。

 問題があった。

 それって、あの騎士たちから報告を受けたってことよね。


 ルカもバイオレッタも何があったのか教えてくれなかったし。

 あんな風に不機嫌なルカを見たのも初めてなんだもの。


「騎士たちはなんと言っていましたか? ルカの態度がおかしいっていうか、なんだか避けられているみたいで」

「……」


 進まない食事の手を止めて、彼に尋ねると、なぜか考え込むように押し黙ってしまった。


 初めはルカとバイオレッタがただ喧嘩か何かをしたのかと思っていた。

 しかしそれでは、私を拒否する意味が分からない。


 きっと二人の間で、私に関することで何かあったのだろう。

 だからこそ、気になるのだ。


「私は大丈夫ですので、教えて下さいませんか?」

「……」


 そう声をかけても、公爵は益々顔の眉間に深く皺を作るだけ。

 なんとなくこういう態度が、ルカのこの人もそっくりね。


「言って下さらなければ、解決もしませんし、考えることも出来ないのですよ? 私はそんなに信用ないですか?」

「いや、そうではないのだが……。ルカはあのバイオレッタという子に、ビオラは母ではないのかと聞かれたそうだ」

「ああ、だから……」

「ルカはうまくそれに答えることが出来なかったらしい」

「そう、なのですね」


 落ち込むな、私。

 知っていたじゃない、そんなこと。


 簡単に母になんてなれないことぐらい。

 むしろそれを聞かれて答えられなかったルカが、一番心を痛めているのに。

 

 母だって言わせられるほど、あの子の中で大きな存在になれなかった私の責任でしょう。


 凹む権利なんて、ないじゃない。

 ないよ。分かっているもの。まだまだ全然だって……。


「すまない、ビオラ。君にそんな顔をさせるつもりはなかったんだ。ルカもきっとそうだ」


 公爵が困るほど、きっと私は酷い顔をしていたのだろう。

 必死に取り繕おうとしても、自分のダメさ加減と悔しさで心の中がぐちゃぐちゃだ。


「大丈夫です。……だけどただ、ルカに申し訳なくて」

「いや、そんなことはない。君はとてもよくやってくれている。俺がもっとその仲を取り持つべきなのに、本当にすまない」


 お互いが謝り続け、食事はほとんど手に付かない。

 しかも見いだせない解決策にただ頭をもたげ、私は部屋に戻ることしか出来なかった。


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