064 今日この頃
「え?」
「あー、いや、ほら……」
ちょっと何言っているの。
今一番言っちゃいけない言葉じゃない。
変に思われちゃうし。
「ビオラ様は……」
「違うの。好きじゃないとか、そういうんじゃないの。好きだったのよ、ちゃんと好きだったの。だから私から結婚をお願いしたの。だけどほら、好きと愛は違うのかなって」
あああ、もう。何言ってるの、私。
自分で言ってて全然意味分からないし。
どこまで墓穴掘れば気が済むのよ。
「好きと愛の違いですかぁ。難しいですね」
フィリアも私の言葉に腕組みをして考え込む。
本当にやめて。深い意味なんてないのよぉぉぉぉぉぉぉぉ。
「好きは一方的に一人で出来ますけど、愛は双方が思い合わないとダメみたいな?」
「双方……たしかに」
そういえば、聞いたことはなかったけど公爵はどう思っているんだろう。
子どもの頃の約束なんてきっと覚えてもいないだろうし。
まぁ、だいたいあんなものは無効よね。
だけど今はどうなんだろう。
家族でいたいって思ってくれるってことは、少なからず好意はあるわけよね。
嫌いだったらあの人すぐ顔に出しそうだし。
でもそれは、好きなのかな。
ううう。難しい。
「ビオラ様は公爵様のことをどう思っていらっしゃるんですか? もちろん家族として好きという以外に」
「えええ。どうなんだろう。そりゃあ、何かあったら心配だし。まぁ、たまに可愛いなって思うことはあるけども。でも、いないと死んじゃうとか、この人じゃなきゃダメとか。絶対離さないとか……どうなんだろう」
少なくとも、私がビオラになってからは、でしかないけど。
他の男性がいいなとか、カッコいいなとか惹かれたことはないのよね。
なんとなくもう結婚しちゃっている身だし。
初対面の印象はもう最悪だったけど、今はそんなことはない。
笑ってくれたら、なんとなく嬉しいし。
傍にいるのだって、落ち着く。
でもさ。そういうのって家族でもそんなもんじゃ……。
ってわけでもないか。
考えたら、ビオラになる前は全然そうじゃなかったっけ。
両親はいつも喧嘩ばかりだったし。
なんなら当たり散らされたこともあったし。
弟は溺愛されていたけど、私はそうじゃなかった。
家族だから一緒にいても居心地がいいとか、幸せだとか、無条件であるわけでもないのよね。
今は私も公爵も協力して、ルカのために居心地のいい環境を作るために努力している。
だからこそだもの。
もし相手があの人じゃなかったら。
私はそこまで頑張れたのかな。
「ビオラ様、わたし考えたんですが、可愛いは重要かと思います」
「そこ⁉」
「はい。何となく見ていてこの人可愛いなって思っていると、そのうちハマってしまうんですよ」
「そんなもんなの?」
「はい。そんなもんなのです」
半ば力説するフィリアにおされ、なんとなく一ミリぐらいは私は彼のことが好きなのかもしれないと気づいた今日この頃でした。




