062 尊い二人
控えめでいて香り立つあの紫のような花のような親子が数日後、屋敷にやってきた。
「この度はお招きあずかりまして、大変ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ、来てくれてうれしいわ、フィリア様、バイオレッタちゃん」
あの手紙はフィリアからのものだった。
この前のスタンピードのお礼がしたい。
そう言ってくれたのだ。
ちょうどルカのお誕生日に招きたい一人だったこともあり、公爵家でお茶会をすることになった。
やや涼しくなったテラスに椅子たちを出してもらい、中庭を眺めながら私たちは会話を楽しむことにした。
私の前にフィリアが座り、ルカの前にバイオレッタが座っている。
ルカは彼女が来ると知ってから、余計に騎士団の訓練を頑張るようになった気がする。
こんなに小さいのに、もう恋しちゃった感じなのかしら。
ルカは私の隣でややもじもじしながら、バイオレッタを見ていた。
「あの、これはお礼と言っては失礼にあたるかもしれませんが、娘と作ったものになるんです」
フィリアはそう言いながら、小さな可愛らしくリボンでラッピングされた包みを渡してくれた。
そこからは、またあの花のような匂いがする。
「まぁ、何かしら。開けてもいい?」
「ええ、もちろんです」
頬をやや赤らめ、フィリアは私が小包を開けるのをジッと見ていた。
中には楕円形に成型された、香りのよい石鹸が入っている。
「これを作ったの?」
「お恥ずかしい話なのですが、元々わたしたちは平民でして。実家はそういうものを売って商売にしていたのです。貴族になって香水とか高いお花をもらうことも増えまして、それを使って何か作れないかなと思い立ち……」
「すごいわ。これ、売り出したら絶対に高く売れそうよ」
「そ、そんな。恐れ多い」
香水石鹸ともいうのか、某石鹸ショップにも引けを取らない香りがある。
こっちの石鹸たちも特別悪いものではないけど、全然香りが違うのよね。
「これに例えば色をつけてみたり、形を花のように削ったりしたら置物や贈り物としても最適だし。いろいろ活用方法がありそうだわ」
うん。はっきりいって、私の画力ない宝石作品より価値がありそう。
昔一度だけ会社の子からフラワーソープをもらったことがあるけど、可愛かったもんなぁ。
しかもしばらくずっと匂いがあって楽しめるし。
こっちにはそういうのなさそうだし、貴族の間で流行れば高値で売れるわよね。
「すごいアイデアですね。さすがビオラ様」
「ううん、私だからってわけじゃないけど。でも、もし出来たら私にも売って欲しいわ」
「もちろんです。頑張って作ってみます」
そんな風に私たちは盛り上がっている横で、子どもたちはただ大人しく座っていた。
ああ、いけない。
今日のメインは二人なのに。
すっかりフィリアと話すのが楽しすぎて、構ってあげられなかったわ。
「そういえば、ルカがバイオレッタちゃんのように強くなりたくて最近騎士団とともに練習を始めたんですよ」
「えええ、そうなんですか?」
集まる視線に、ルカはただ恥ずかしそうにコクリと頷いた。
「うちのバイオレッタも、ビオラ様の後押しもあって今騎士団に入るべく、夫が基礎を教え始めたんです」
「あら、それなら一緒なのね」
私の言葉にバイオレッタはニコッと笑った。
んー。このまま私とフィリアが話していたんでは、ルカたちの仲が深まらないわ。
ここはそうね。
「ルカ、バイオレッタちゃんにお庭の案内をしてあげたら? 抜けた先で騎士団も練習しているはずだし」
「いいんですか? 騎士団を見に行っても」
バイオレッタの目の色が変わる。
そんなに好きなのね。
でも、そうね。
大好きな父親と同じ職業だから、余計に気になるのかな。
「ええ。ルカ、頼めるかしら」
「もちろんでしゅ。バイオレッタちゃん、いこー?」
ルカはそう言いながらバイオレッタの隣まで行くと、手を差し伸べた。
バイオレッタは嬉しそうにその手を取り、一緒に歩き出す。
その小さな後姿は写真に収めたいほど、尊くて、一人気づかれぬよう私は悶絶していた。




