006 ちいさな天使
「ビオラも意地になんてならずに、ちゃんとあの子と接してあげればよかったのに」
あんなに可愛い子。
しかもこの屋敷で誰も真っすぐに目を合わせてもくれないのに、ルカだけはどこまでも真剣にビオラを見ていた。
「ねぇ、ビオラ。ルカだけでも……んー、ルカがいてくれたら、あなた十分幸せだったんじゃない?」
そう語りかけたところで、もうこの体の持ち主は返事をするわけでもない。
だけどビオラが置かれたこの状況と、ルカの瞳を見ていると、私にはそう思えて仕方がなかった。
しばらくルカが走り去った方角を眺めていると、また小さな歩幅でテトテトと彼が戻ってくる。
その小さな手には不釣り合いな大きめのコップを持っていた。
「ビオラ様!」
途中転びそうになり、中に入っていた水が少しこぼれても、ルカは全力で私のそばまで走ってきた。
その懸命な姿は微笑ましくもあり、涙が出そうになる。
「おみじゅ、でしゅ。ああ、こぼれてりゅ」
私に差し出しながら、ルカは自分が汲んできたコップの中身に気付き声を上げた。
おそらくたっぷり入れてきたであろう水は、もう半分くらいになってしまっている。
「あの、あの、あの……ボク……」
目の前で悲しそうにコップの中身を見つめるルカを、私はそっと引き寄せて抱きしめた。
「ありがとう、ルカ様。わざわざ私のために、お水を汲んできて下さったのですね」
「でもおみじゅが」
「大丈夫です。すごくすごく嬉しいですよ」
私はルカからそっとコップを受け取ると、そのお水を飲み干す。
今まで飲んできたどの飲み物よりも、それは甘く美味しく感じられた。
「すごく美味しかったですわ。ありがとうございます、ルカ様。助かりました」
「ううん、いいんでしゅ。えへへ」
お礼を言えば、キラキラとした瞳一杯に私が写っている。
「ふふふ。かわいい」
心の中に留め置くべき言葉は、あまりのルカの可愛さに漏れていた。
「ふええ」
ルカの小さなほっぺたが赤く染まる。
こんな可愛い子、見たことないわね。
それなのに……。ああ、そっか。
ビオラもルカもどうせここでは一人。
だったら、一緒にいれば二人になれるんじゃないかな。
いきなりは無理でも、ルカと家族になれたら少なくとも私たちは一人じゃなくなる。
もしかしたらその先で、ルカが闇落ちすることも、私が死亡退場することも回避できるかも。
打算でしかないけど、でもルカがこんなに可愛いんだもの。
いいわよね。
「ルカ様はここで何をしていたんですか?」
「えと、虫を……」
ルカは視線を私の足もとへ移す。
男の子って、虫好きだもんね。
観察していたってことか。
「虫の観察をしていたんですか?」
ルカはややおどおどしながらも、こくんと頷いた。
「私も一人でやることがないので、ルカ様と一緒に観察してもいいですか?」
「え、ビオラ様も?」
「お邪魔でなければ、ですが」
「一緒してくだしゃい」
ルカの満面の笑みを見ていると、私の心も満たされる気がした。