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愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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055 少しの異変

 屋敷に戻り数日経過した頃、季節は夏から秋へと移行しようとしていた。

 そんなある日の朝。

 いつものように三人での朝食の席、ルカがやや思いつめたような眼差しで話しかけてきた。


「あの……」

「どうしたの、ルカ。どこか具合が悪いの?」


 昨日の夕飯は仕事があった公爵とどうしてもお部屋で食べたいと言い出したルカとは、別々に食事をとった。


 だからこうやって三人が顔を合わすのは、昨日の朝ぶりだ。

 その間に、風邪でも引いてしまったかしら。


 最近明け方は少し肌寒くなってきたから、注意をするように侍女たちには話してあったんだけど。


「医者を呼ぶか」

「あ、の。違うんでしゅ。その……」

「うん。どうしたの?」


 こんなにモジモジとするルカは久しぶりに見た気がする。

 前は自分の意見を言いたい時とか、結構こんなだったわね。


 だから本当、ずいぶん成長したなって思っていたとこなんだけど。


「変なんでしゅ。あの! 気のせいかもでしゅけど、でもやっぱり変で」

「うん。ルカ、何がどう変なのか教えてくれる? 気のせいでもなんでもいいのよ。思ったことを教えてくれるかしら」


 ルカはやや自信なさげに視線を泳がせたあと、それでも奮い立つようにしっかりとした声で話し出した。


「お庭の虫たちが変なんでしゅ」

「虫? どう変なのかしら」

「いつもはお庭にいない種類の虫がたくさん来たんでしゅ」

「いつから?」

「昨日からで。昼に見た時に変だなって思って、リナに頼んで夜と、朝ここに来る前も見てきたでしゅ」


 ルカはほぼ毎日、日課として庭の虫を観察している。

 だからこそ、気づいたということもあるんだろう。


「季節が変わって、虫の種類が変化したのではなくてか?」


 公爵の言葉に、私も思わずうなずく。

 普通で考えれば、それが一番近い答えだと思うのだけど。


「そうじゃないんでしゅ。んと、本来はここよりずーと森の奥にしかいない虫がいたんでしゅ」

「森の奥にしかいない虫」

「しかも急になんでしゅ。雨が降ったとか、そういうのだってないでしゅし」


 ルカはこと虫のことに関しては、私たちなどよりはるかに博学だ。

 

 そのルカが異変を感じた。

 そうなると、本当に森に何かあったと考える方がいいのだろう。


 時期はまだ先だったから気にしていなかったあの件。

 もしかしたら関係があるのかもしれない。


「昔どこかの本で読んだことがあります。虫や生物たちが急に移動し始めたことがあると」

「ぼくもそれ見たでしゅ! 森ですたんびーしゅとっていうのが始まった時に起こる現象だって」


 私には前世で呼んだ本の知識だけど、さすがルカね。

 やっぱりルカは天才だわ。


 って、今はそれどころではないわ。

 第二騎士団が森で大量発生した魔物退治を命令され、その過程でバイオレッタの父が亡くなったのだから。


 もしルカの言っていることが合っているとしたら、さほど遠くはないうちにスタンピードが起こるだろう。


 いえ、もしかしたらもう徐々に始まっているのよね。


 始まった以上回避が出来ないのなら、バイオレッタの父親が死なない方法だけは見つけないと。


「ルカの憶測が正しければ、大変なことになる。一度、公爵家の騎士たちを連れて確認に行かねば」

「私はその間に、その可能性を王宮へ伝えます。どれだけ信用してもらえるかわかりませんが……」

「ああ、頼むビオラ」

「アッシュ様も、くれぐれもお気をつけください」


 まだ起ってはいないにしろ、ことは急を要す。

 今は出来ることを頑張るしかない。


「ルカ、すごく大事なお話をしてくれてありがとう。被害がでないように、少し私もお父様も屋敷を開けてしまうけど、お留守番出来る?」

「もちろんでしゅ。ここはぼくが守っておくでしゅ」


 どこまでも頼もしい言葉を聞いた私たちは、それぞれの目的地へ急いだ。


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