051 いつかの夏休み
「ビオラ、それはなんでしゅか?」
「ふふふ。なんだと思う?」
「えー、虫かごでしゅか?」
ルカの瞳がいつも以上に輝いている。
しかしよく見れば、他の騎士やら侍女たちの目も興味津々だ。
作成を頼んだ時もそうだけど、この世界にはなかったものみたいね。
今更だけど大丈夫かしら。
「ハズレー」
「えー、じゃあどーやって使うんでしゅ?」
大丈夫じゃなくても、ルカが可愛いから気にしないでおこう。
「こてはね、こうやって使うのよ」
私は箱メガネを一つ持つと、履いていたサンダルを脱ぎそのまま湖へ。
「び、ビオラ危ないでしゅ」
「奥様!?」
「大丈夫よ。この湖は遠浅だとアッシュ様から聞いているから。だけどルカが入る時は絶対に目を離さないでね。子どもは浅瀬でも十分おぼれてしまうから」
私はそう言いながら、湖の浅瀬の水面に箱メガネを浮かべ中を覗き込む。
魚はこの位置からは見えないものの、下に転がる石などははっきりと見えた。
うん。成功ね。
さすが公爵家、お抱えの職人さんが作ってくれただけあるわ。
材料はこちらにある素材に合わせて、やや薄めの木材とガラスだから、私が想像していたものより高級だ。
ちょっと重さはあるけど、水の上で使う分には問題なさそうね。
「な、何か見えるんでしゅ?」
「ええ。コレで水の中が見えるのよ。水の中に虫さんはいるかしら」
「えええ、ぼくも見てみたいでしゅ」
「はい、どうぞ。靴と靴下はちゃんと脱げるかな」
ルカは興奮しながらも、キチンとその場に座り込み、靴下と靴を抜いだ。
そして少し警戒しながらも、ややひんやりと心地の良いこの湖に足をつける。
ルカが足を入れても、浅瀬は彼の膝下くらいしかない。
溺れてしまわないように交代で監視が必要だけど、少しは涼みにもなるんじゃないかしら。
ルカは私のところまで来ると、さっそく箱めがねをのぞき込む。
「しゅごい、しゅごい。水の中が見えるでしゅ。まほーみたいでしゅ」
良かった。喜んでくれて。
ルカは箱メガネに顔を当て湖の中を覗きながら、浅瀬を少しづつ歩いていた。
カニさん歩きのようでかわいいけども、ズボン濡れてしまったわね。
水着用意してもらえば良かったわ。
だけどルカが初めて見る水の中の世界に興味を示してくれたことが嬉しいから、あとで一緒に乾かせばいいから、いっか。
「ああ、みんなも余ってるの使っていいからね。だけど深いところまでは行ったらダメよ」
「奥様、ありがとうございます」
その反応を見ていると、まるで大きな子どもが増えたかのようだった。
そしてそんな子どものようにはしゃぐ彼らを見ていると、こちらまで幸せな気分になっていった。




