050 初めての家族旅行
どこまでも広がる森に、対岸がはるか遠くに見えるやや遠浅の湖。
そのほとりに、公爵家の別荘はあった。
私が想像していたロッジの別荘とは違う。
例えるならば、高級リゾートホテルのようなものだ。
公爵家の屋敷もかなりの大きさがあったが、ここでも十分多いくらい。
そんな別荘には半数の私設騎士と使用人を連れてやってきた。
しかし中には、それとは別にこの別荘専用の使用人たちもいるという充実具合。
お金持ちともなると、こうも世界が違うのかしら。
しかも私が公爵にお願いしてから、一週間ぐらいしか経っていないのに。
別荘の中もとても綺麗に整備されており、まさに準備万端だという感じだ。
「うわぁぁぁ、すごいでしゅ。あっちにも、こっちにもいる!」
ルカはここへついてすでに数時間経つものの、安定にそのテンションは高いまま。
護衛と侍女を連れて、別荘の近場で虫観察を行っている。
元々避暑地として作られたこの別荘は、屋敷の中庭よりかなり涼しい。
しかし屋敷から馬車で二時間ほどかかっており、そこから休む間もなく小一時間ルカに付き合った私はすでに疲れてしまっていた。
ルカが見える位置に椅子とテーブルを出してもらい、今はただルカがはしゃぐ姿を見ている。
ちょっと疲れたけど、連れて来てもらって正解ね。
あんなに元気に走り回るルカ、初めて見たわ。
本物の羽が生えたかのように、元気に走り回るルカはどこまでも可愛らしかった。
一方ここまで一緒に来た公爵は、来て早々に秘書がまずはどうしても急ぎの仕事をと連行していってしまった。
忙しいのは知っていたけど、こんなとこにまで来て仕事というのはちょっとかわいそうね。
「体調は大丈夫ですか、奥様」
そう言いながら、アーユが冷たい飲み物を持ってきてくれた。
いくら公爵邸よりは涼しいとはいえ、季節はおそらく夏。
外遊びも大変だ。
だけどここに湖があると聞いていたので、やりたいことがあったのよね。
「アーユ、この前頼んだものって出来たかしら」
「はい。奥様の指示通り出来上がっています。ですが、あれは何をするものなのですか?」
アーユは首を傾げながらも、奥に控える別の侍女に指示を出す。
すると私が欲しかった通りのものを、持ってきてくれた。
昔は牛乳パックに透明なラップとかプラスチックをはめて作ったことがある。
お金もかからないし、夏はそんな遊びばかりしていたなぁとそれを受け取りつつ思った。
「これは箱メガネというのよ」
「箱……メガネですか」
「そうそう。あの短時間で結構な数を作ってくれたのね」
侍女たちが持つ箱メガネは、数個あった。
これならば壊れても問題ないし、遊ぶのにも十分だわ。
それに見せてあげたかったのよね、ルカに。
この世界にはゴーグルもないし。
水の中を見るにはこれしかないと思ったらから。
「ルカー、ちょっと私と遊びましょう?」
ルカは私の言葉に振り返る。
そして侍女たちが持つ箱メガネを見ると、興味津々で駆け寄ってきてくれた。




