043 嫌味な人たち
「一時期、公爵様が中々再婚なさらないのは前の奥様のことが未だに忘れられないからってどこかでお聞きしたことがあったんですが、違ったんですね」
おうおう。
ストレートによく言ったものね。
それを今の妻である私に聞くことかしら。
ある意味失礼じゃない?
前の妻を想って~なんて、知ってても言わないでしょう。
でもそれを何ともなしに言ってしまうこと自体、品がないか悪意があるかよね。
だいたいこれ、公爵が聞いたら激怒しそうだわ。
話を聞けば聞くほど、あの方はノベリアのこと嫌悪していたし。
「まさか。夫が中々再婚に踏み切れなかったのは、子どものことを一番に考えてのことですわ。ただでさえ、実の母を失ったショックが大きいというのに、いきなり違う人間が来て次の母だと言われても困るでしょう?」
「たしかに。公爵様は深慮なのですね」
「ええ、そうね」
この返答が正解ではないけど、仕方ないから顔を立てておくわ。
やだ、今度から貸しはメモっておこうかな。
それでいつか盛大に請求したいわね。
モノが欲しいわけじゃないけど。
「でもビオラ様こそ、大変ではないです? 実の子ではない子を育てるなんて」
「実の子でも大変ですもんねぇ」
「そうそう。中々言うことも聞いてくれないし」
されると思っていたわよ、その質問。
絶対こういう席に出たら、言われると思っていたのよね。
だからこそ、ビオラは参加できなかったんだもの。
あの家での誰ともマトモな関係を築けなかったから。
でも残念。私は違うのよ。
「ええ。すごく大変ですね。でもルカはすごく聞き分けもよくて、それこそ実の子と実の子ではないとか関係なく、良い親子関係を築けてますわ。それに少なくとも、私は血の繋がりだけが大切だとは思ってないんですの」
「……さすがビオラ様」
私がさも当然とばかりに言葉を返し、微笑むと彼女たちはバツが悪そうに、それでも笑みを作っていた。
うん。
やっぱり感じた通りね。
この人たち、あんまり好きじゃないわ。
公爵の親族ではなかったら、とっとと帰っているところよ。
「そういえば、今度うちは新しい家庭教師を雇ったんですのよ」
「まぁ、すごい。ソニア様のところはどの子もとても優秀だとお聞きしましたわ」
「ええ。国立の学園に入学されるって話でしたわよね」
「そうなのよ。入試がとても難しいらしいけど、うちの子たちなら大丈夫だと言われているのよ」
事前に聞いていた話では、ソニア男爵夫人のところには男の子が二人いる。
一人がルカと同じ年齢で、もう一人が二個上だったっけ。
この国では、ほんの一部の平民と貴族の大多数は六歳になると国立の学園を受験する。
前のところで言う、頭のいい私立の学校というイメージっぽい。
そこへの入学は費用がかかるものの、成績優秀で卒業出来れば城でのよい役職などが確定するというものだった。
倍率高いって言ってたっけ。
子どもの頃から受験って大変だなって思うわ。
勉強が大事なのはわかるけど、勉強漬けってなぁ。
子どもっぽくなくなっちゃう気がするのよね。
「ビオラ様のところは、家庭教師はどうなさっているんです?」
「ああ、うちはまだ今は私が教えているくらいですわ」
「まぁ。それでは遅くないですの?」
「んー。どうかしら。でもどのみちもう少ししたら厳しい次期公爵としての教育も始まってしまいますし、あと少しは楽しい時間も大事かなって思って」
さすがにこの発言だけはダメだったらしい。
三人とも教育ママなのか、一気になぜ勉強をしないとダメかを詰めてくる。
それに私が微笑みながら適当に相槌を打っていると、今度はその矛先が飛び火してしまったのだった。




