042 ある意味、井戸端会議
「子どもたちはあちらでみんな遊んでいますのよ」
男爵夫人がややここから離れた中庭の奥を指さす。
子ども同士で遊ぶのは大事だけど、この前誘拐事件があったばかり。
さすがに人様の家で、人目があるのは大丈夫かと思うけど。
「リナ、ルカをお願いね」
私は案内された席につくと、ここまで一緒に歩いてきたルカの手を離し、ルカの専属侍女になったリナに託す。
過保護だと思われても、ここへ来る前にルカから目を離さないように打合せしておいたのだ。
「かしこまりました、奥様」
「ルカ、楽しんできてね」
「はいでしゅ」
ルカはにこにこしていて、思ったよりも緊張はしていないようだった。
子ども同士なら人見知りみたいなのはないのかなと思いつつ、私は目の前の婦人たちに向き直った。
同じテーブルにいるのは、私以外に四人。
よく見ればそのうち三人は、同じような形で色違いの髪飾りをつけている。
あの三人が仲良しさんなのかな。
でもそうなると、右端に座った控えめで長い黒髪のこの女性は何かな。
「まずはご挨拶させていただきますね。わたくしはこの男爵家夫人ソニアですわ。でわたくしの右から同じ男爵家のランカ様、イリス様、そして準男爵のフィリア様」
準男爵。
確か、元は平民で何か功績を上げた騎士とかそういう人が一代限りで得た身分のハズ。
ある意味私なんかからしたら、すごい努力の人って感じなのに。
なんだろうか。
ただ紹介をしているだけなのに、その態度からしてちょっと気になる。
「私はビオラ。現公爵夫人ですが、あまり貴族階には詳しくないから仲良くして下さるとありがたいわ」
「もちろんですわ、ビオラ様」
そう口々に、男爵系な婦人たちは私に微笑んだ。
一人ややこの席で小さくなる、フィリアの顔をのぞき込む。
するとぎこちないなりに、笑顔を返してくれた。
「あのわたしでもよければ……」
その声は自信なさげで、とても小さい。
「もちろん、よろしくね」
やっぱりちょっと席が可哀そうだなとは思いつつも、なんとなく目の前の三人よりも真隣となるフィリアに親近感を覚える私は彼女が近くて良かったと思えて仕方なかった。
一通り挨拶を終えると、私の前にも紅茶が出される。
それが合図とばかりに、彼女たちとの会話が始まった。
「ビオラ様と公爵様の仲はよろしいの? どこの家もそうですが、政略結婚って大変ではないですか」
「そうそう。あたしと仲の良い子なんて一回り上の方のとこに嫁いで大変だって」
「ああ、さすがにそれは嫌ね」
女の人って、こういう会話好きだなぁと思いながら私はやや遠巻きに彼女たちの会話を聞いている。
私のことを聞きたいのか、自分たちの話をしたいのか。
タイミングというか、会話に混ざるの難しいのよね。
「で、ビオラ様のとこはどうなんです?」
なんて思っている間に、またこっちに会話戻ってきたし。
「とても仲は良いんですわ。子どもの頃から公爵様とは仲が良かったのもありますし、父が彼に褒賞を与えるとおっしゃった際に、私からお願いしたんです」
「まぁ。それほど公爵様のことを?」
「ええ。初恋だったんです」
そう私が照れくさそうに言えば、彼女たちは黄色い声を上げていた。




