039 家族となるために
「それでアッシュ様は、これからどうなさるおつもりなのですか?」
「どう、とは?」
私の言葉に公爵は首をかしげる。
「ノベリア様がルカを求め、そのあと再婚して欲しいと言ったらどうするんですかってことです」
「どうもしないというか、あり得ないだろう。俺は今、君と結婚している身だぞ」
「でも離婚は出来ますよ」
ノベリアがそうしたように。
しかも私と公爵はそういった関係性すらない、いわば白い結婚だ。
彼女の時より、すんなり離婚も出来るだろう。
父は難色を示すかもしれないが、元の奥さんが出戻りしてきちゃったのならねぇ。
誰も何も言えないわ。
「するわけないだろう!」
そう言いながら、公爵はソファーから立ち上がる。
そんなに嫌いだったんだ。
なんだ……そっか。
「俺は君のことがす……」
「?」
「その、だな。そう、家族になりたいんだ」
「家族ですか」
本気なのかしら。
私がジッと見つめ返せば、彼は視線を外し、やや落ち着きなさそうに手を動かし出す。
全然本気っぽく見えないし。
ちゃんとルカのコト考える気があるのかしら、この人。
ただノベリアが嫌いだから適当にこちらに合わせてるだけじゃないの。
もっとも、公爵が味方であってくれないとルカを一人では守り切れなさそうではあるけど。
「今までのことはすべて詫びる。結婚もそうだ。君が悪いのではないのに、意地を張ってしまって結果君を放置し、傷つけてしまった」
「あ、そういうのはどうでもいいです」
「え」
「私のことより、家族になりたいのならルカのことを真剣に考えて下さい」
本心はどうでも良くはないけど、私は当事者ではないし。
ビオラは残念ながら消えてしまったのよ。
でももしどこかで見てくれているなら、謝罪してもらえたよって感じかな。
幽霊とか見たコトはないけど。
それよりも今生きていて、一番大切にしなきゃいけないのはルカでしょう。
今まで放置していた歴だってルカのが長いんだから。
「ああ、そうだな。ルカとの時間も作り、父親になれるよう努力しよう」
「そうして下さい。私たちはあの子を生んだわけではない者同士ですが、努力すれば家族にはなれるって思っていますから」
まぁ、公爵は血が繋がっているから本来はすでに家族なんだろうけどね。
「あとはノベリアが付け込むような隙を与えず、地道に絆を深めていくしかないですね」
「わかった。とりあえず子爵家には抗議を入れるつもりだ」
それはもちろん必須として、誰が見ても家族だと思えるような思い出とか関係性を作っていけたらいいなって思う。
私たちは家族となるために、どんな行動をしていけばいいのか。
その日は遅くまで二人で話し合った。
結婚してからある意味初めてというくらい、お互いの意見をぶつけ合った。
少なくともこれは進歩であり、きっかけは散々だけどある意味良かったと言えるだろう。
ただその夜、ノベリアのことを思い出して腹が立ち『埋めよう、埋めて、埋める、埋める時、埋めれば、埋めろ』なんて不穏なワードで一人下一段活用していたのは内緒だ。




