００４ 興味がないのはこちらも同じです
部屋の外には広い廊下があった。
部屋は廊下を挟んで左右に数個あり、また中央には下へと続く階段がある。
階段の手すりは金でつくられ、天井には水晶なのだろうか、輝く大きなシャンデリアがあった。
さすが公爵家というとこなのかしら。
どれを見ても高級感たっぷり。
私の部屋の中とかなり違うんですけど。
こんなにお金あるなら、もう少し化粧品とか、あとはソファーとかあってもいいと思うのに。
あんな木で出来た簡素なテーブルセットじゃなくてさぁ。
いや、あれでもいいけどせめてクッションが欲しいかな。
お尻が痛くなっちゃうもの。
でもいくら夫との仲が悪かったとしても、最低限の世間体ってあるじゃない。
公爵がそこまでしたとは思えないのよね。
むしろあの侍女たちが隠したとか、盗んだとか。
そっちの線のがあり得そうなんだけど。
「んー」
この中央階段にたどり着くまで、数名の使用人たちとすれ違ったが、誰もが私を無視するように避けて通っていった。
いないものというよりは、どこか嫌悪を抱いている。
皆がそんな表情に思えてならなかった。
「まぁ、被害妄想かもしれないけどね」
少なくともこの体の持ち主だった子は、そう感じていたように思える。
だから彼らの顔色をうかがうように、いつも視線を気にしていた気がした。
味方いなさそうね。困ったな。
こんな右も左も分からない世界で、敵ばっかりって。
手すりを掴みながら、ゆっくりと階段を降りると、ちょうと一階の右わきにある部屋の扉が開いた。
中から背はこの子より頭一個半分くらい高いだろうか、ややガッチリとした体格でブルーグレーの短い髪、青い瞳の男性が出てくる。
そして彼は私を見つけるなり、眉間に深く皺を寄せた。
「アッシュ様」
その言葉は私の意思ではなく自然に口からこぼれていた。
「ビオラ、何の用だ？ そんな貧相な格好をして、今度は俺の同情を買う気か？」
「貧相？ 同情ですか？」
トゲしかない彼の言葉に、私は思わずそう返していた。
同情って、ここにきてもう何回目かしら、それ聞くの。
なに、今流行ってたりするの？
そんなブームいらないんだけど。
こっちだって一ミリも売りたくもないわ。めんどくさい。
ビオラ、この子の名前がそうなのね。
やっぱりこれで子どもの名前があれだったら、私が思っている物語そのものね。
にしても貧相な格好で、相手の同情を買うってどんな状況なのかしら。
だいたいあのクローゼットに入っていた服は、ほぼこんなのばっかりだったし。
「とぼけても無駄だ。何度も言うが、俺は君になど何の興味もないからな」
「……はぁ、そうですか。私もないので大丈夫ですよ？」
「⁉」
私の反応がいつもと違ったせいか、アッシュと呼んだ推定夫も、その後から出てきた従者らしき人も、顔をしかめた。
そんな顔されたってねぇ。
だいたい、中身はもうビオラでもないし。
自分の妻に対して興味ないとか、自分だけいい服着て妻は貧相だとか。
そんなこと言ってしまうような男、こっちも興味ないわよ。
いやぁ、本で読んだ時は確かにこのビオラが可哀そうでっ感情移入したけど、現実ここに立つと、それよりもこのアッシュのキャラが嫌いすぎてビックリだわ。
何なの、この人。モラハラなの？ フキハラ？
やだ、なんでこんな人と結婚したのよ、ビオラ。
私があなたの友だちだったら、絶対止めてたわ。不良物件すぎ。
返品できないのかしら。
「私もないって……」
「だいたい服はクローゼットにあったものです。ご用意されたのは私ではなく、公爵様では？ お気に召さないと言うのなら、これからはお気に召すものだけ入れておいて下さい。では失礼」
私は言いたいことだけ言うと、呆気にとられた彼らを無視し、そのまま玄関の扉を開け外へと出た。
外の日差しはやや強く、初夏並みの暑さがあった。
しかし空はどこまでも高く、雲一つない。
それだけで、私はどこかスッとした明るい気分になれた。
