035 ああ言えばこう言う
「彼女はルカの実母、ノベリアだ」
「そうなんですね。ああ、似てなくてよかったですわね、アッシュ様」
「はぁ? あんたさっきから聞いていれば」
「あんた? 私を誰だとお思いで? まったくこれだから教養のない方は困りますわね」
こっちは元王女で現公爵夫人なんだからね。
中身違っても、身分だけはいいんだから。
今にも飛び掛からんばかりに激怒するノベリアを、公爵を真似て冷たい視線で見返す。
自分で言うのもなんだけど、この視線ちょっと似てないかな。
一度やってみたくて鏡で練習したのよね。
「で、アッシュ様、この方たちはなぜここにいらしているのですか?」
私は彼女たちを無視し、公爵に話しかけた。
しかしそれがマナー違反だと分かった上で、また彼女が口をはさむ。
「うちの可愛い息子が、継母であるあなたにいじめられてるって教えてもらったから確認に来たのよ」
「は?」
今この人、なんて言ったの?
私がルカをいじめているって?
「いじめていらしたのは、そこの乳母ではなくて?」
「まさか。乳母はただ、厳しく教育を施していただけよ。ああ、王族だと甘やかされて育つのかもしれませんが?」
私に言い返せたのがよほどうれしいのか、ノベリアは笑った。
普通に見れば、大きな瞳にたっぷりまつ毛、涙袋も大きく、目の下には涙ぼくろ。
赤くぷっくりとした唇に、華やかな香り。
綺麗系を極めたような彼女は、まさに悪役令嬢なんだなぁ。
ビオラはどちらかといえば、うさぎ顔だし、やや童顔なのもあって可愛い系なのよね。
私たちは二人ともモブだから、所詮ってことなんだろうけど。
まったくルカの母親なのに、こんなにも強烈キャラってどうなのかしら。
「甘やかすもなにも、ルカを捨てたのに何を今さらですか?」
「今更でも何も、あたくしは母親ですから」
これが本当に愛情からだったのなら、私だってここまで抵抗なんてしないわ。
だけどあの乳母も連れて来ている以上、魂胆が開け透けて見える。
「母親を名乗り、ルカのために面会をなさりたいのでしたら、まず手順を踏むべきでは?」
「手順? 母親が会いたいというのに、なんの手順が必要だというの」
「母親だろうが何だろうが、まずはルカが会いたがるかどうかが先のはずです」
「はぁ? 子どもにそんなこと分かるわけないでしょう」
ルカのこと、本当になんだと思っているの、この人。
一番はルカの気持ちでしょう。
自分だっていきなり誰かが訪ねてきたら嫌なはずだろうに、自分の子ならいいってどういう神経なのかしら。
話せば話すほど腹が立つわ。




