031 少しの油断
「ルカ、ココで待っていて?」
街中の広場のベンチにルカを座らせる。
ルカは私に似たぬいぐるみを横に置き、ニコニコしていた。
「あの目の前のお店でジュースを買ってくるから、見えるし大丈夫かな」
「動かないでしゅ」
「絶対にダメよ?」
「でしゅ」
ほんの少し前、公爵は屋敷からの緊急の遣いが来たということで馬車まで戻っていった。
この広場で待っていてほしい。
その言葉で待っていたものの、今日も安定に暑く喉が渇いてしまったのだ。
だからルカをベンチに座らせ、真正面にある店に私は並んだ。
途中チラチラとルカを確認していたが、おとなしく言いつけを守ってぬいぐるみと遊んでいる。
公爵の分も買っておいた方がいいかしら。
あ、でも三個は一人で持てないか。
「すみません、これとこれをください」
ま、あの人のはあとで戻って来てから買えばいいわ。
にしても、緊急の遣いって何かあったのかしら。
昔はよく、仕事で呼び出しとか休みの日でもあったけど、そんな感じかな。
「はい。どーぞ」
「ありがとう」
店主からジュースを受け取り、振り返る。
「ルカ、ジュースどっちが……」
そう言いかけて見たものは、一人ベンチに座るあのぬいぐるみだけだった。
「え? ルカ?」
私は手に持ったジュースが零れるのも気にせず走り出す。
そしてベンチに着くと、辺りを見渡した。
私、どれだけの時間目を離していた?
注文してお会計する前までは、ちゃんと見ていた。
時間にして三分も経ってないはず。
「ルカ! ルカー!」
人混みの中に紛れ込んでいないか、大きな声を上げる。
しかし返事は返ってはこない。
私のせいだ。
ほんの少しでも、目を離すべきじゃなかった。
ちゃんと返事をしてくれたからいいと思ったけど、全然ダメじゃない。
ジュースをベンチに置き、私は辺りを見渡しながら走り出す。
「ルカ! ルカ!」
「ビオラ!」
振り返ると、ルカではなく公爵がいる。
「アッシュ様、ルカが」
「どうしたんだ」
「今、そこでジュースを買っているすきにルカがいなくなってしまって」
公爵も辺りを見渡した。
しかし見える範囲には、ルカの姿はない。
「私のせいだ……目を離したから」
心臓の音が早くなり、手が震え出すのを自分でも感じた。
迷子になってしまったのだろうか。
でもそれよりも怖いのは……。
「金髪のちびちゃんなら、さっきメイドさんみたいな赤っぽい髪の子が手を引いてあっちに歩いて行ったよ」
広場内の近くに立っていた店主が、私たちに声をかけながら街の奥に続く道を指さす。
金髪のって、間違いないわ。
でも赤髪のメイドさんって誰かしら。
「ありがとうございます」
「行こう」
今は考えるよりも先にルカを探し出さないと。
私たちは店主が示した道に向かって走り出した。




