027 好きな人に花束を
王宮の中にはたくさんの花が咲き乱れていた。
そしてその中心で、小さなビオラは両手に余るほどの花を受け取る。
「ふふふ。嬉しい、アッシュ兄様。だーい好き」
「俺もだよ、ビオラ」
「本当?」
「ああ。本当さ」
「じゃあ、大人になったら絶対に結婚して下さいね」
小さなビオラとビオラよりもほんの少しだけ大きなアッシュ。
まだその運命も何も知らなかった頃だ。
ふと花束を受け取った瞬間、私の頭の中にはそんな過去の映像が流れていた。
きっとこれはビオラの過去よね。
この頃からビオラはアッシュのことが好きだった。
だけどアッシュの父である前公爵と父である王とは仲がとても悪く、王の命令で赴いた戦場でアッシュの父は戦死してしまった。
その頃からだ。
あんな風な関係ではいられなくなり、同時にアッシュはまったく笑わなくなった。
ビオラだって分かっていた。
全部自分の父のせいだと。
だからこそ、あの人を助けたかったという気持ちだけは本当だったのだけど。
結局それも通じぬまま、ビオラは消えてしまった。
ビオラも可哀そうなキャラよね。
「ビオラ、お花ダメでしゅたか?」
花を見つめたまま考え込む私の顔を、ルカがのぞき込む。
視界いっぱいにルカの顔が映し出された瞬間、どうしようもない過去など微塵も消えていた。
「いいえ。すごく嬉しいわ。ありがとう、ルカ」
朝食を終えルカを迎えに行くと、元気になったのなら一緒に中庭に行きたいとルカが言い出したのだ。
また虫の観察をするのかと思っていたら、急にルカは花を摘み始め私にプレゼントしてくれた。
その姿が公爵とかぶってしまって、ちょっと過去を思い出しちゃったみたい。
今はルカとの大切な時間だもの。
過去はもういいわ。
「ビオラがよろこんでくれると、ボクもうれしいでしゅ」
「まぁ。ホント、ルカは可愛いわね」
「えへへ」
私はルカの頭をそっとなでた。
ああ、でもそうね。
こんなに可愛いのだから、ちょっと危険だわ。
誰かれ構わず花を贈っていたら、きっと勘違いする人が増えてしまうもの。
きっとすぐに求婚されたって思う子も出て来るはずだわ。
なんせ、こんなにも可愛いんだし。
この可愛さは神がかってるし。
勘違いさせてしまったら、あとが大変だもの、阻止しなきゃ。
「ルカ、お花を贈るのはその人が好きだということなのよ。だから贈る人が勘違いするといけないので、送る時はちゃんと相手を考えてから渡さないとダメだからね」
「はいでしゅ!」
私の言葉に右手を上げながらルカは返事をする。
しかしその言葉と裏腹に、また花を摘み始めた。
「えっと、ルカ?」
「リナと料理ちょーにあげてくるでしゅ。ビオラまっててー」
両手に数本ずつ花を持つと、ルカはテトテトと駆け出す。
「えええ」
いや、確かに好きって伝えるってことだろうけど。
うん、満面のあの笑みで花をもらったらみんな嬉しくなっちゃうけど。
そうじゃない、そうじゃないのよー。
思わず叫びたくなる私など気にすることなく、ルカは自分の好きを伝えるためにたくさんの使用人たちに花を配っていた。




