024 だんだん良くなる境遇
「これって、売りに出したはずなのにどうして」
いつもと変わらぬ輝きを放つペンダントを、ただベッド上で眺めていた。
三日くらい寝込んでしまっただろうか。
その間には、ビオラだった頃の夢も見た。
彼女の境遇はなんとなくは知っていたが、私とさほど変わりはなかった。
ビオラには腹違いの兄や弟、そして妹がいたから。
正妃の子ではないビオラの扱いは、王宮でも雑でしかなかったらしい。
せっかく生まれ変わったというのに、なんだかね。
ルカがいてくれるだけ、今回はいい方って言えるのかな。
そうだ。
熱も下がったし、ルカの様子を見に行かなきゃ。
乳母の件もどうなったのかしら。
ベッドから足を下ろし、着替えようとすると、部屋をノックする音が聞こえてくる。
「どうぞ」
「失礼します」
入室してきたのはアーユと、彼女が連れた侍女だった。
「お加減はいかがでしょうか、奥様」
「え、ええ。随分寝てしまったようだけど、今日はもう調子がいいわ」
「旦那様が奥様とお話があるそうで、共に朝食をとのことですが、いかがなさいますか?」
ああ、数日ここを空けるとは言っていたけど、もう戻っていたのね。
夢で公爵がここに来た気がしたけど、まさかね。
でもどのみち、乳母の件では話をしないといけないからちょうどよかったわ。
「分かりました。ダイニングへ行きますわ」
「では、支度をさせていただきます」
「ふぇ?」
鏡台の前に座らされると、入室してきた侍女たちによって身支度がされていく。
ビオラになってから初めての化粧や、一人で出来たはずの着替え、そして髪の手入れ。
有無を言わさず、テキパキとそれでいて丁寧に支度が進められる。
えっと、何がどうなっているのかしら。
ビオラになったばかりの頃は粗末そのもので、放置されていて、少ししたら部屋は豪華になったけど、今度は侍女に身支度されるって。
「あの、これは一体どういうことなの?」
私は侍女たちに指示を飛ばすアーユに尋ねた。
「旦那様よりの指示です。奥様には今まで部屋付き侍女しかおりませんでしたが、専用の侍女となる者を決めるそうで」
つまりは選抜試験みたいな感じかしら。
前の部屋付き侍女っていうのは、あのラナたちよね。
そういえば、彼女たちはあの後一度も見かけてはいないけど。
「前の部屋付き侍女たちはどうなったの?」
「二人は鞭うちのあと解雇、一人は縁故での雇用のため解雇できず、鞭打ちと髪を切り落とした後、今は下働きに回してあります。今後奥様の目に入ることはないと思いますが」
「そう」
あれだけのことを公爵の前でしてしまったのだものね。
鞭打ちは痛そうだけど、解雇は仕方ないか。
「ああそれに、公爵家で処罰を受けて解雇となるとこの国での再雇用はまず望めないでしょう」
さらりと言うアーユに、私は少し怖くなる。
思っていたよりもずっと、その罪は重かったみたい。
「本日はどれを着られますか?」
そう言って開かれたクローゼットは、なぜか前回よりも見たコトもないドレスなどがぎっしり収納されていた。
いつの間に増やしたの、あれ。
どこも出かけないから、ドレスなんて必要ないのに。
それこそもったいない。
「えっと、お昼からルカのところに行きたいから、簡単なワンピースでいいわ」
そう言ったにもかかわらず、着させられたワンピースはオーダーメイドかと思うほどサイズがピッタリと私の体形に合わせて作られたものだった。
初めにここで来た薄い生地のワンピースが思い出せないほど、裏地まであるしっかりとした白い生地のワンピースは、肌触りや着心地などよいものだった。




