021 何もない子ども部屋
ルカの部屋は、まるで昨日までのビオラの部屋のようだった。
ほとんど何もない部屋。
欲しがってはいけないって、そういう教育だっけ。
にしてもだ。
おおよそ、子どもらしくない部屋だ。
簡素な木の机に、椅子。
そこには本もなければ、人形やオモチャの一つもない。
ビオラのというか、ああ、これは殺風景な昔の私の部屋みたいだ。
うちの親は下の弟ばかりをかわいがって、私にはマトモな人形一つ買ってくれたことなかったっけ。
大人になってからそんな親との関係は清算して、自分の思うままに生きる様にはなったから私は良かったけど。
むしろ親がべったりの弟は弟で、この先もずっとあのままだってことに少しは同情したくらいだ。
「だ、誰が勝手に入っていいなどと」
「うるさい、黙りなさい!」
この期に及んでも自分の身分を主張するマーガレットに、私はキレた。
そしてベッドに横たわるルカに近づく。
手に触れると、それだけで熱があることが分かる。
顔を赤くして、唸るように苦しむルカは、眠っているのかこちらに気付くことはない。
これで熱がないだなんて、よく言えたものね。
重症じゃない。こんな状態で放置しておくなんて。
「誰かすぐに医者を手配しないさい」
「承知しました」
私の言葉にアーユが反応し、走り出す。
「勝手にされては困ります」
「黙りなさい。あなた何を考えているの? 病気の子どもを放置しているのもそう。それにこの部屋は何? なんでこんなにも何もないの」
かけている布団だってそう。
どう見ても子ども用ではないし、部屋にあるものすべて粗悪品ばかりだ。
「それは……」
「執事長、ルカには公爵様よりこのように扱えと言われているの?」
「いえ。そんなことはございません。子どもですので、お金の管理はそこなる乳母がしておりますが、十分な資金が手配されております」
「では、それはどこに?」
私の言葉に、マーガレットは視線をそらす。
しかし少し考えたあと、彼女は饒舌に話し始めた。
「ルカ様は食べるものや買うことなどが好きで散財してしまって」
「そう? こんなにも何もないのに?」
「ええ、そうです。高いものを買ってしまわれたり」
「私にルカは乳母より欲しがることはいけないことと言われて、紙すら買ってもらえないと言っていたわ」
私の返しに、執事長がマーガレットに詰め寄った。
「どの話が本当なのか、精査しなくてはなりませんな」
「わ、わたくしは嘘など言っておりません」
「執事長、そのうるさい人をこの部屋から追い出して。ルカの体に障ります」
「……承知いたしました」
こんな扱いはありえないと叫ぶマーガレットは、執事長やそのあと呼ばれた兵によって部屋からつまみ出された。
そしてこれ以上ルカに干渉させないために、彼女は公爵が帰宅するまでは、牢に入れてその身を拘束することを執事長に約束してもらった。




