002 転生先は嫌われ者でした
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
ゴソゴソと部屋で誰かが動くような音で、意識を取り戻す。
「ううっ……」
「やだぁ、まだ生きてたし!」
「もうビックリさせないでよ。死んだかと思ったのに」
「ラナ、あなた早とちりしすぎよ」
「だって、こんな床で寝てるのよ? 普通死んでると思うじゃない」
うっすらと目を開ければ、同じお仕着せを着た侍女が三名ほど見える。
三人は私を頭上から見下ろしながら、しゃべっていた。
「まったくいい迷惑だわ」
「ホントホント。こんな風にあたしたちの気を引こうだなんて」
「死んでたら公爵様に急いで報告しなきゃって思ったけど、死んでないならこのままでいっか」
人が床で倒れているというのに、この子たちは何を言っているのかしら。
死んでないからいい?
もし仮に死んでいたら、どうする気だったのだろう。
報告して、ハイ終了となんてならないはずよね、きっと。
でも世界が違えば、そんな簡単に人の死は片づけられてしまうのかしら。
そう考えると、ゾッとする。
「同情を買おうとか無理ですからね、王女様」
「まったくこっちは忙しいんですから。ここはもうお城ではないんですよ。自分のことは自分でなさって下さい」
「手間がかかるようなら、こちらから公爵様に報告させていただきますからね」
床に転がり未だに動けない私に、そう吐き捨てると三人は笑いながら部屋を出ていった。
彼女たちが部屋から出て行ったあと、なんとか体を起き上がらせる。
気だるさは変わらないものの、昨晩の差し込むような頭の痛みはない。
ため息を吐きつつ立ち上がると、テーブルには簡素な料理と水が置かれていた。
「お城……王女……公爵」
どう考えても、あの物語の設定に似ている気がする。
やはり私、憑依転生みたいなのしちゃったみたい。
はっきりと痛みも感じるし、これはもう夢ではないもの。
まず状況を確認して、本当にそうなのか調べなきゃ。
でもその前に、何か食べないと動けそうもないわ。
何日こんな風に体調が悪かったのか分からないが、この体は驚くほど痩せていた。
強風が吹いたら飛んで行ってしまうんじゃないかしら。
前の私の体重の半分とは言わないけど、本当にそれくらいしかない気がする。
美人薄命じゃないけれど、ペラペラね、この体。
もしかしたらそれが原因で死んでしまったとか。
だから向こうで死んだ私がこの中に入った?
仕組みは全然分からないけど、それって良かったのかな。
「何にしても食べて体力をつけないと。もう一回死んだら今度こそどうなるか分からないわ」
私はテーブルまでやっとの思いで歩き席に着くと、侍女たちが運んできた食事を見た。
湯気を立てていない冷めたようなスープは、ほとんど具が入ってはいなかった。
そしてその傍らには、いつ焼いたのかも分からないような固いパンが、そのまま皿もなくテーブルの上にぽつんと置かれている。
「コンビニご飯よりひどくない?」
まかり間違っても、ここって貴族の家なのよね。
こんなに質素なご飯が普通なのかしら。
百歩譲って質素はありでも、せめてパンはお皿に盛るでしょう。
拭いてもないテーブルに直置きって、嫌すぎるわ。
病み上がりにがっつりとしたフランス料理みたいなの出されても無理だけど、これはいろいろさすがに……。
だけど鳴りだすお腹の虫には勝てず、私は固いパンをちぎってスープに浸しながらゆっくりと食事を始めた。